電影都市−アルゲス プレイレポート『私の探しもの』


THEME LIST
●2nd World●
『出会い』
『理解する』
『手を伸ばせ』
『次へ至るため』
●3rd World●
『知り得ないこと』
『どこかにある真実』
『幸運の導くがままに』
『私は探し続けていくよ』
●Real World●
『だから今は涙を拭わずに』


STAGE−ARGES 2nd World

● 電影都市−アルゲス・第二世界区画 ●

◯「村崎・津音の言解議状態(サイトモード)『ナカツクニフィールド・イズモにて』」◯
《村崎・津音の言像更新(オーバーリロード)
 蒼白い月が静かに光を湛えている。
 対して、月下の平原では戦勝を祝う宴の準備で騒がしい限りだ。
「賑やかになったわね」
 紫苑色のセミロングの髪と人狐族特有の獣毛に覆われた耳、機殻掘削機(カウリングドリル)を提げた彼女の名は、村崎・津音。
 “野狐(ワイルドフォックス)”の字名を持つ、流浪の探索者だ。
 彼女の眼前では、世界閉鎖の危機を救った戦士たちが各々を労い言葉を交わしている。
 労いの声は彼女にも掛けられる。
 そのことに対し彼女は微笑。
「普段は討伐参加しないけど、こういうのも悪くないわね。最後にログも拾えたし」
 言って、アイテム詞窓(ウィンドウ)を展開。
 アイコン付きで表示されるアイテムに目を通す。
 その中にある、文書(テキスト)アイコンのアイテムを選択。
「タイトルは……『水穂の竜意』、か。――あー、また閲覧できないじゃないのコレ」
 ログを展開しようとアイコンに指を押し当てた津音は、見慣れたエラー詞窓(ウィンドウ)を即座に閉じる。
 肩を落とし溜め息を一つ。
 再びアイテム詞窓(ウィンドウ)へ目を遣る。並んだ文書(テキスト)アイコンはその殆どが閲覧不可で、アイテム欄の肥やしになっている。
「閲覧条件さえ分かればなあ……」
「あ、おらはったおらはった! えらい探しましたで村崎・津音様!」
 項垂れ唸っていた津音は、自分に向けられた声に顔を上げた。
《村崎・津音の言像更新(オーバーリロード)
 目の前に小柄な銀髪の少女が息を切らせて立っていた。
 カバーに覆われた少女の耳は横に細長く伸びており、長寿系の種族であることが見て取れる。
 四角いフレームの眼鏡を掛けた柔和な顔が、悪戯っぽい印象を津音に与える。
 少女は額に張り付いた癖のある銀髪を払い除け、破顔した。
「どうも! 手前はシェド・セイヴレフティっちゅうもんです!」
 その名に、津音は聞き覚えがあった。
「『世界交商学団』の“死の商人(デスマーチャント)”がわざわざ私のところに駆けてきて、いったい何の用かしら」
「なんと! 手前どものことをご存知でしたか! 恐悦至極に存じます!」
 喜色満面のシェドは、両手で津音の手を取り上下に激しくシェイク。
 シェドの力は見た目に反して強く、津音は驚いた。
 見れば、シェドの背には少女自身を中に閉じ込められる位に大きな棺がある。
 それだけ巨大な物体を背負って自分の元に駆けてきたという事実を思い出し、津音はシェドの力に納得する。
 そしてこれまでの経験から、この後に商談が待ち受けているのだろうと予測。
 ――確かにドリルはかなりの数を消費したけど、第三世界区画にある行きつけの店に行けば手に入るのよね。
 津音はどうやって商談を断ろうか思考を巡らしつつ、相手の言葉を待つ。
「先の戦闘で村崎・津音様の戦いぶりに手前は心を奪われました!」
「は、はい!?」
 予想していたものとは全く異なる台詞をフィールド中に響き渡るような大声で叫ばれ、津音は半歩引いた。
 しかしシェドは一歩進むことで津音との距離を詰める。
 あと数センチ前に動けば、シェドの顔が津音の胸に沈み込むほどの近距離だ。
「そんな村崎・津音様に、折り入ってお願いがあります!!」
 シェドの瞳は潤み、頬は赤く、息は荒い。
 何を勘違いしたのか、周囲の人々が二人を取り囲み、熱い視線と野次を送ってくる。
 シェドの様子と場の空気に、津音の背筋を冷たいものが駆け抜けた。
 ――これは尋常の商談ではない。
 直感的にそう悟る。
 その思考と同時に、一つの記憶が台詞となって脳裏を過ぎる。
 ――J.C.バーチのような華麗な戦いぶりを披露するPCに、尊敬以上の感情を持つ者が後を絶たない、と。
 所謂ファンや取り巻きと呼ばれる者たちだが、彼らの中には性別を超越し、特別な関係を望む者も存在する。
 具体的に言えば赤面してしまう行為を――。
 そこまでで台詞の再生を止め、津音は動く。
 静止のために、
「ちょ、ちょっと落ち着いて――」
「掘って欲しいんです!!」
 その一言で、場が静まり返った。
 それまで二人に等しく注がれていた視線は、津音一人に集中する。
 津音は耳の獣毛が逆立つ感覚を得た。
 自身を落ち着かせるための、かつ時間を稼ぐための深呼吸を行った上で、
「――その、掘るって、何を?」
「穴です。そしたら穴からあったかーい液体がこうドバドバ出て、最終的にみーんな気持ちよーなって幸せっちゅう寸法ですわ」
 シェドは当然といった様子で目を弓に。
 ギャラリーは無言で互いの位置を調整。中央に指揮者を配置したオーケストラ型の隊列を組み、指揮者の手振りで、
「え――――――――!?」
 津音は盛り上がるギャラリーを視線で黙らせ、シェドの肩を掴む。
 目を合わせ、諭すように、
「気持ちは嬉しい。でも御免、私そういう趣味はないというか……」
「ちゃんとお礼はしますよって! 何卒! 何卒お願いします!」
「お、お礼って! そういうことは気持ちの問題でしょ!」
「そこを何とか! どうかお願いします!」
 その言葉と同時、シェドが一瞬腰を落とし、両足で大地を蹴って飛び上がった。そのまま空中で両手を高く掲げ、顎を上げる。
 シェドは仰け反りながら宙へ。顔が背後へ消え、なだらかな双丘が駆け上がり、スカートが津音の前で展開し、両足が流れる。
 バック転だ。棺を背負ったままの。
 しかし、着地は直立姿勢ではない。
 空中で手足を折り曲げて正座姿勢を取ったシェドは、脛と手の平と額で大地に伏した。
 土下座である。
 質量ある棺が、バック転で加えられた勢いをそのまま少女の背に叩き付ける。
 肉と鉄がぶつかり合い、騒音を奏でた。
「何やってるのよ!」
 津音は慌てて屈んでシェドを引き起こそうとするが、土下座中の商人は地に張り付いたまま不動。
「お願いします! お願いします! お願いしますぅ!!」
 叫びと共に、シェドが顔を押し付けた地面に赤い液体が広がり始める。
 着地の際に鼻を打ち付け、血が噴き出ているのだ。
 今まで熱狂していたギャラリーたちは急速に熱を失い距離を起き、津音に非難の視線を投げる。
「あそこまでさせるとか引くわー」「ひでえ」「あの子可哀想……」「何様だよ」「血出てるじゃん」「俺もフォックスしたい」「まさに外道!」「悪魔がおる」
 津音が聞き耳を立てずとも届いてくる言葉は、一部ノイズを除き、その殆どが津音を悪と断ずるものだ。
 ――このままいくとまずい。
 津音は焦った。
 それは、彼女自身が“ほぼソロプレイヤー”という立場だからだ。
 ソロプレイヤーとして単独でどこでも活動できるほどの能力はないが、特に強い関係を持つ相手もいない。それが津音の在り方だ。
 故に、目的地によってはその時々で臨時の共闘関係を築くことが必要になってくる。
 今回の討伐もそうだ。
 このような最深部に辿り着くためには、他者の協力が必要不可欠だ。
 しかしこの一件で悪評が流れ、共闘関係を拒まれるようになれば、もはや深層でのログ収集が困難になる。
 それは避けたい。
 その想いが、津音を突き動かした。
「――わかったわよ」
「掘っていただけますか!?」
 シェドは土下座の姿勢を崩さない。土下座とは、完全に合意が成されるまで解かれないものだ。
 津音は己の髪を掻き回して叫ぶ。
「ええ、ギュンギュン掘ってやるともさ! もう病みつきになるくらい気持ちよくしてあげるわよ!」
 津音以外の人々が割れんばかりの歓声を上げた。
《村崎・津音様の言解議状態(サイトモード)を更新します》

◯「シェド・セイヴレフティの言定議状態(ボードモード)『ナカツクニフィールド・イズモにて』」◯
《シェド・セイヴレフティの言像更新(オーバーリロード)
:ここはナカツクニフィールドの記常頁(トップページ)“イズモ平野部”です。
:周囲の平原には複数の人影がいます。
:敵の姿は見えません。
シェド:〈ガフトノーシュを討伐したから、当分はこのままやろうな〉
《シェド・セイヴレフティの言像更新(オーバーリロード)
:村崎・津音様が隣にいます。
:口元をやや広げ、無言です。呆れているものと判断します。
シェド:「どないしはったんですか?」
《村崎・津音:設定(プロパティ)変更:名前表示:短縮=津音:詞速(ラン)
津音:「掘るって、そういうことなのね……。勘違いしてたわ。まあ、普通そうよね、普通……」
シェド:「勘違い?」
津音:「こっちの話。で、ここに穴を掘ればいいの?」
シェド:「はい、お願いします」
津音:「しっかし温泉を作るとは、大胆なことを考えたものね」
《シェド・セイヴレフティの言像更新(オーバーリロード)
:村崎・津音様は何度も頷いています。感心しているものと判断します。
シェド:「さっきの戦闘で手前どもは輸送艦で物資輸送を担っておったんですが、ガフトノーシュの穿った地面から噴き出した温水が被弾して、えらいダメージもらいましてなあ」
津音:「そこから温泉作りのヒントを得た、と。商人は考えることが違うわね。入浴料はおいくら?」
シェド:「お代は頂きまへんよ。無料のサ――ヴィス、ですわな」
《シェド・セイヴレフティの言像更新(オーバーリロード)
:村崎・津音様は何度も瞬きしています。驚いているものと判断します。
シェド:「顔は売りますけど」
津音:「なるほどね」
《シェド・セイヴレフティの言像更新(オーバーリロード)
:村崎・津音様がドリルで地面を削り始めました。
:人影の中から、一人の男性PCがこちらに近づいて来ます。
グッディ:「おぅい委員長、片っ端から温泉やるって声掛けしてきたぜー。あとはどれだけ人が集まるかだ」
シェド:「ありがとーグッディ。――彼はうちのギルドメンバーです、村崎・津音様」
グッディ:「ちっす。あ、一応そっちに表示出てると思うけど正式名称はグッドイ主土方だぜ。グッディって呼んでくれ」
津音:「はじめまして、村崎・津音です。よろしく、グッディさん」
グッディ:「おうよ。……しっかし、いい尻だなあ」
津音:「は?」
《シェド・セイヴレフティの言像更新(オーバーリロード)
:グッドイ主土方様が屈んで村崎・津音様の臀部を眺めています。
:村崎・津音様はグッドイ主土方様を見て眉を詰めています。困っているものと判断します。
シェド:〈あー、これはライトちゃん怒るわ〉
ライト:「こちらの交渉は終わったぞ委員長。皆で臨時の温泉街を形成するそうだ。――おい他所様に何やっとるか変態が!」
グッディ:「悪い悪い、お前の胸もこうやってちゃんと揉みしだくか――ンゴッ!」
ライト:「死ね死ね死ね死ね! このままクリティカル出して晒し首にしてやる!」
津音:「う、うわあ!? ざんぎゃく!」
シェド:〈言像更新(オーバーリロード)するまでもあらへんな。でもまあ、とりあえず止めとこか〉
《シェド・セイヴレフティ様の言定議状態(ボードモード)を終了します》

◯「石川・V・ライトの言解議状態(サイトモード)『ナカツクニフィールド・イズモにて』」◯
《石川・V・ライトの言像更新(オーバーリロード)
 白い裸身を湯煙と温水に沈め、一息。
 半神の少女、石川・V・ライトは敷き詰めた石に背を預け、黒髪を包むタオルを抜き取った。
 長髪を湯に浸けないよう湯に浮かべた木桶に流し込み、タオルで額に浮かぶ汗を拭う。
 視界には、二つの月がある。
 水面に浮かぶ月影と、天に揺蕩う月光だ。この二つを同時に眺めるのは、中々に贅沢だ。
「いい湯だな。フハハン」
 リズムを持った言葉を呟けば、周りで湯に浸かる女性PCたちもそれに追従する。
 気を良くしたライトは声高らかに、
「弓矢が背後からブスリと背中に」
 その一節で女性PCたちは慌てて背を隠して壁を求め始める。
「ご機嫌やね、ライトちゃん。でも周りの人がドン引きやからヤメような。うちはええけど」
 正面、水面の月影を割ってこちらに向かってくるのは、半寿族の少女・シェドだ。
 耳のカバーも外し、一糸纏わぬ状態で湯に浸かっている。ただし背には棺を背負ったままだったが。
「挨拶回りという名の情報収集と印象付けは終わったか、委員長。――と、先程はうちの馬鹿がすまない、津音殿」
 そのシェドに手を引かれて現れたもう一人の女性PCを見、ライトは頭を垂れる。
 頻繁に周囲を見回していた人狐の津音が動きを止めた。
「気にしてませんよ。ええ、ほんと、視線とか気にしてませんから。
 勘違いして叫んだけど根本的にノーマルだし。誤解なんてすぐに解けるし」
 言って、再び視線をさ迷わせる。
「覗きを気にしておられるのか? 安心召されよ。そのような不届き者は、あの馬鹿のように臨時会場の熱湯宣伝に放り込む」
 他の女性PCを安心させるためにも、胸を張って宣言する。
 と同時、臨時会場の方から「押すなよ、絶対押すなよ!」と連呼する男の声が響く。
 一瞬の間を置き、ライトの視界の隅で水飛沫と断末魔の叫びが高く上がる。
 ライトが満足そうに頷くと、後方でわずかに草を揺らして遠のく音が三つ。
 瞬間的に無表情になったライトは舌打ちを一つ。
「下手人は三人か。また無益なものを斬ってしまうな」
 機殻忍者刀(カウリングニンジャソード)“スティールカッター”を構えて湯船から飛び出そうとするライトを引き止めるように、狼狽した顔のシェドが声を上げた。
「えっとえっと! ――うわあ、やっぱりライトちゃんは胸おっきいなあ!」
「何故今更当然の事実の確認を?」
 その発言でシェドを含む幾人かの女性PCが笑みを不自然に濃くするが、ライトは気付かず続ける。
「まあ、拙者の胸には寛容さが詰まっておるからな」
 ライトが視線をシェドに合わせたまま、胸の谷間から手裏剣を取り出して下手人たちに投じ悲鳴を上げさせる。
 眼前の胸を凝視していたシェドは額に青筋を浮かべた笑顔で沈黙。
 ライトは首を傾げ胸を揺らし、
「どうした委員長?」
「そ、それにしても、仲がいいのね、お三方。同盟を組むだけはあるというか」
 何故か津音が今までの流れを無視した台詞を放った。
「やや誤認があるように見受けられるが、少なくとも私と委員長の仲はいいぞ。
 あの変態はおまけとか数合わせとかいざという時の人間バリヤーとか、そんな存在だ」
「素直やないのがライトちゃんのいじらしいところでな――うひゃあ首根っこはあかんって!」
 ライトは余計なことを口走る半寿族の首を背後から片手で掴んで持ち上げ、相手から顔が見えないように己の膝の間にスライドさせる。
 そしてシェドが身動きを取れないよう、両手両足を用いて完全にホールド。
 その上で彼女の後頭部に顎を乗せ、
「受けよ超振動」
 顎を小刻みに上下させる。
「ほぁー!? 脳がぁー! 脳がぁー!」
 半泣きで叫ぶシェドを見て、津音は苦笑。
「わ、らっ、て、な、い、で、た、す、け、てててててててて」
 後半の台詞は顎から伝わる振動によって引き伸ばされたものだ。
 それから程なく、ライトはシェドが目を伏せて己の間に胸に沈み込んだのを見計らい、津音に切り出した。
「津音殿は何故、同盟に所属しないのであるか?」
《石川・V・ライトの言像焦点(オーバーズーム)
 津音は三つの表情を順に見せた。
 最初は虚を突かれたときに生まれる驚嘆の表情で、その次は何処か遠くを望む穏やかな表情だ。
 最後に、
「私だけの探しものが、あるから」
 微笑でもって答えられたライトは、すぐに言葉を継げない。
 蒼白い月に視線を逸らし、継ぐべき言葉を見つける。
「その探しものに、手は届きそうであるか?」
「……わからない。けど、いつかきっと」
「届くと信じておられる、と」
「ええ」
 ライトは嘆息。
「それほどの覚悟であるのなら、勧誘するわけにはいきますまい。――それで、探しものとは?」
 そう問うと、津音は狐耳を掻きながら苦笑。
「実は漠然としたイメージしかなくて。絶対に忘れてはいけないことだけど、どうしても思い出せない――というか」
 そう言ったきり、俯いてしまった。
 ――この御仁も、か。
 自身が同じ想いを持つことを告げず、ライトは呟く。
「諦めずに手を伸ばせば、たとえ一度見失ってしまったものでも再び掴める日がやって来る――拙者はそう信じておる」
 掴めぬ月に手を伸ばし、ライトは言った。
「だから拙者は、いつまでも手を伸ばし続ける。貴殿もそうであろう?」
《石川・V・ライト様の言解議状態(サイトモード)を更新します》

◯「グッドイ主土方の言解議状態(サイトモード)『ナカツクニフィールド・イズモにて』」◯
《グッドイ主土方の言像更新(オーバーリロード)
「まったく、酷い目に遭ったぜ」
 金髪をオールバックに固めた大男は、元々鋭い目付きを更に鋭敏にしてぼやいた。
 黒布を縫いつけた男性用セーラー服をラフに着込むこの男は、グッドイ主土方。
 『世界交商学団』のギルドメンバーの狙撃手で、通称グッディ。
「この刀で“自業自得男”という名前を刻んでやろうか?」
 忍者刀をチラつかせて言うのは、黒髪を後頭部で結った女性PC。石川・V・ライトだ。
 彼女もセーラー服を着ているが、スカート部分は袴型になっている。
 グッディはライトの隣に立つ女性PCに視線を泳がせる。
「委員長、俺の代わりに遠慮すると言っておいてくれ」
「うちは遠慮しとくわ。はい言った」
 半目になったグッディを無視して、委員長――シェド・セイヴレフティが続ける。
「さて。敵も湧いてきたし、そろそろお暇する時間や。
 次の目的地やけど、第九世界区画でええかな?
 A・M――“将軍(ジェネラル)”の『軍』に新しい自動人形の娘が入るから集会するねんて。
 いつも贔屓にしてもろとるから顔見せしとかんと」
 グッディは緩く手を挙げ、
「俺は意義なーし。しかし、“将軍(ジェネラル)”とはA・Mも偉くなったもんだ。
 砂漠でカラカラに干からびそうになっていた“新人(ニューカマー)”の脳筋馬鹿とは思えねえ。
 それが今や側近に“七本槍(セブンスピア)”っつー共通の字名を与えた女十人に侍女服着せて侍らせてよ。
 ――もう別の意味でカラカラだな!?」
「意味のわからん破廉恥馬鹿の発言は当然の如く無視するとして、拙者は委員長に付き従うだけだ。何の問題もない」
 半目になったグッディを無視して、シェドは頷く。
「ほんなら決定やな。あと毎度のことやけど、第三世界区画で“ルソン”の補修してから移動な。
 今回はけっこダメージ溜まってるから移動中は要注意で」
「あいよ」
「うむ」
 そこまではいつもと変わらない流れだ。
 いつもと異なるのは、シェドの隣にもう一人女性PCが立っているということだ。
「村崎・津音様はどちらに行かはりますか?」
 人狐の削岩師(ドリラー)、村崎・津音は考える素振りを見せ、
「第三世界に行ってドリルのストックを増やしておこうかと。あとはそのまま第三世界でログ探しを続けるつもり」
「手前がもっとようけ扱っとったら良かったんですが……」
「いやいや、ドリルなんてマイナー職向きの武器を扱ってるだけで賞賛ものですって。
 お礼も充分すぎるものでしたし」
 津音は平身低頭のシェドに両手を左右に振りながら語りかける。
 ――いい人だ。
 グッディは直感的に確信した。
「そしていい乳だ」
 グッディは反射的に発言した。
 ライトの方から斬撃が来たので白刃取りで受け止める。
「ああ、村崎・津音様は気にせんとって下さいな。いつものことやから」
 シェドのフォローに対し津音は冷や汗を浮かべる。
「ええっと、その、本当に仲がいいのね。そう、素晴らしいことだと思うよ?」
 最後が疑問形になっている理由を誰も問わなかったので、そのまま流れた。
「村崎・津音様さえ良ければ、“ルソン”で第三世界までお送りしますが――どないされます?」
「皆さんが良ければ、お願いしたいです」
 はにかみながら、津音は狐耳を立てた。
 ――奥ゆかしい人だ。
 グッディは直感的に確信した。
「そして艶めかしい人だ」
 グッディは反射的に発言した。
 ライトの方から打撃が来たので片足を上げて受け止める。
「いつものこといつものこと」
 シェドのフォローに対し津音は作り笑いを浮かべる。
「もう心底羨ましい限りで、ええ。本当よ?」
 誰も問い返さなかったので、そのまま流れた。
「それでは、短い旅路やけど、何卒よろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ、よろしくお願いしますね」
 津音はシェドに劣らぬほど深々とお辞儀。
 ――いじらしい人だ。
 グッディは直感的に確信した。
「そしていやらしい人だ」
 グッディは反射的に発言した。
 ライトの方から蹴撃が来たので甘んじて受け止める。
《グッドイ主土方の言像焦点(オーバーズーム)
 薄緑色だった。
《グッドイ主土方様の言解議状態(サイトモード)を更新します》

STAGE−ARGES 3rd World

● 電影都市−アルゲス・第三世界区画 ●

◯「シェド・セイヴレフティの言解議状態(サイトモード)『航空輸送艦“ルソン”表層・艦長室にて』」◯
《シェド・セイヴレフティの言像更新(オーバーリロード)
 青い空間が八方に広がっている。
 その所々に宙を浮遊する巨大な金属の大地が点在し、幾つかの大陸を形成している。
 金属大陸の表面には侍女型自動人形の姿が多く認められる。彼女らと相対する存在もまた機械だ。
 ここは機械仕掛けの神が支配する土地、第三世界区画。
 その空中フィールドを移動する“船”がある。
 竜の形を摸した鋼鉄の船は、航空輸送艦“ルソン”だ。
 “ルソン”は快い速度で空を駆けて行く。
 第三世界区画の金属加護による性能上昇が、“ルソン”の速度を跳ね上げる。
『――――!』
 竜が吠声を上げ、さらに加速する。
 吠声に共鳴するように、世界中の金属が奏でる騒々しい大音声が“ルソン”に帰ってくる。
「第二の生まれ故郷に帰ってきて、“ルソン”も嬉しそうやな」
《シェド・セイヴレフティの言像更新(オーバーリロード)
 “ルソン”の艦長席に座るシェドは、高速で流れていく空を見て苦笑。
 シェドの言葉に応じるように、艦長室に男性の機械音声が流れる。
『嬉しい、という感情を吾は知らぬ。この世界が吾に与える金属加護が速度を上昇させただけに過ぎない』
 シェドは“ルソン”の声に対し首を傾げる。
「竜は意味もなく吠えるんか?」
『あれは加速の報告である』
 機械の声が無感情に答え、シェドは笑みを濃くする。
「効果の程は?」
『内部をスキャンしたところ、ミーティングルームにいる客人は正しく意図を察して加速に備えていた。
 グッドイ主土方は姿勢を崩してバスルームで入浴中の石川・V・ライトの元に突入したが、双方加速によるダメージは認められず、
 しかしその後にグッドイ主土方が石川・V・ライトよりダメージを受けており――いつも通りだと判断できる』
「うちの竜は優秀やね」
Tes.(テス)、主の望みに答えるのが従者の務め』
 シェドは小さく拍手を送り、
「優秀なうちの竜に尋ねるけど、アンタは村崎・津音様の持つログについてどう思う?」
『過去の残滓だ。それ以上でもそれ以下でもない』
 “ルソン”は即答。シェドは三度頷いて間を置き、
「しかしな“ルソン”。うちはここにおる皆との思い出(ログ)には特別に価値を感じるで?」
『観測者によって価値が変動する、と? ――判断不能』
「商売の基礎や。理解できたらうちと一緒に商人やれるで」
 “ルソン”は即答しない。迷いとも取れる空白ののち、
『吾は主と共に飛翔することにのみ価値を見出す』
「うちの竜は優秀やね」
Tes.(テス)、主の領分を侵さぬのが従者の務め』
 シェドは小さく拍手を送り、嘆息。
『今の反応に不満が?』
 いやいや、とシェドは手を左右に振る。
「結局、あのログは誰に読まれることを望んどるんやろーな、と。そう思ったんや」
『――――』
「無理に答えようとせんでええよ。アンタの優秀さはよう理解しとるから。初めて戦ったときからな」
 “ルソン”は否定も肯定もしない。それは自身の優秀さを当然のものとして認める行為だった。
 シェドは艦長席の腕掛けを撫でる。
「うちの見立てでは、あのログが大きなイベントのキーになっとるはずや。うちにはわかる」
『その根拠は?』
「女の勘」
 “ルソン”は無言。
「今のは『商人の勘とちゃうんかい!』ってツッコんでもよかったんやで、“ルソン”」
『――話の続きを』
「うわあ“ルソン”が怒ったぁ」
 シェドがシートの上で頭を抱えて丸くなる。
『吾に怒りという感情はない』
「怒ってないって言う人は既に怒っとるんやって。まあええわ」
 シェドは姿勢を正し、シートの上で正座。
『――――』
 足を伸ばし普通に座り直す。
『よくできたと判断できる』
 “ルソン”は半目のシェドを無視して、
『主の話を、聞かせて頂きたい』
「イベントの内容までは予測できんけど、ログの解読方法は幾つか考えられる」
『幾つか、とは?』
「三つや。未だに誰も読めんあのログは、同じようなものが幾つも存在しとってな?」
 シェドは右手の指を三つ立て、己の記憶を辿る。
 ――村崎・津音様自身も複数持ってたはったし、うちが今まで会うた人の中にも持ってはる人がおった。
 指を一本折りたたみ、
「せやから第一の解読条件は、同型のログを全て揃えることや。未発見のものも全て」
 “ルソン”は言葉を挟まない。最後まで聞いた上で反応を寄越すつもりだ、とシェドは判断。
 そんで、と二本目の指を折り、
「第二に、解読用のアイテムや能力を使うこと。もしくは特定の職に就くこと。
 これはさっきの収集と違って人が限られるな。集めるだけならうちでもできる。金の力使うてな」
 三本目の指を折り拳を作る。
「第三の方法は、完全な受身や。一定の時間が経つか、イベントが始まったら読めるようになる。
 この場合は、ログに記されとる内容がイベントの解決に繋がるわけやな」
『現在できることは、ログの収集だけか』
「そーやな。ま、いずれにせよログは全部集めんと意味はないやろな。断片だけ持っとってもな」
『では何故主は客人からログを買い取らない? 売り付けようとしないのも不自然だ』
 “ルソン”の疑問に対し、シェドは苦笑。
「こらこら、うちがログ持ってんのは内緒やって。――売りも買いもせん理由、か」
 眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、
「ログの価値を決め兼ねとるからやな。いや、正確には決めたくない、というとこか」
『吾には理解が及ばない判断だ』
「うちもよーわからん。思い出に対して価値を付けるっちゅー行為が、恐ろしいんかな。
 ともあれ――」
 四肢を伸ばして疲れを外に追い出す。その後、胸の前で腕を組み、
「うちがログの一片を持っとる限り、ログの完全収集は為されん、と。そういうことや」
 歯を剥き出し不敵に笑う。
 シェドは“ルソン”の格納アイテム詞窓(ウィンドウ)を開き、
「ログのタイトルは『望みの空』か。“ルソン”、アンタはどないな空がお望みや?」
『主にとって楽しき空を』
 ハ、とシェドは声を上げる。
「うちの竜は優秀やね」
Tes.(テス)、主の幸いを求めるのが従者の務め』
 乳白色の輸送艦は、己の衝角(ラム)で空を割って前に進む。
《シェド・セイヴレフティ様の言解議状態(サイトモード)を更新します》

◯「村崎・津音の言定議状態(ボードモード)『航空輸送艦“ルソン”地下一層・ミーティングルームにて』」◯
《村崎・津音の言像更新(オーバーリロード)
:ここは航空輸送艦“ルソン”地下一層の記常頁(トップページ)“ミーティングルーム”です。
:室内には二名の人物がいます。
:グッドイ主土方様と石川・V・ライト様です。
:二人は円卓を挟んだ正面に並んで座っています。
津音:〈仲良さそうで羨ましいなあ〉
グッディ:「お、今の俺への視線はつまり――惚れるなよ?」
《村崎・津音の言像更新(オーバーリロード)
:打撃音が走りグッドイ主土方様が視界から消えました。
ライト:「――いい湯加減だったろう? そうかそうか、そんなに首を振る必要はないぞ?」
津音:「あ、ありがとうございました。それで、先程の話の続きだけど――」
ライト:「『軍』について、か。あのギルドは戦闘に特化していることは既に話しておったな?」
津音:「ええ。その代表とされるのが“七本槍(セブンスピア)”、だよね」
ライト:「うむ。この“七本槍(セブンスピア)”とは元々豊臣――む? なんだ豊臣とは?」
津音:「?」
ライト:「――いや、何でもない。最近意味不明な記憶が拙者の脳を掠めるのだ」
津音:「……それってかなり危ないのでは?」
ライト:「ははは、身体はこの通り元気だから気にしなくていい。ともあれ、だ」
ライト:「“七本槍(セブンスピア)”は強い」
ライト:「魔女や竜機師、仙道に狂戦士といった固有戦種が複数存在する上に、各々がギルドマスターの器を有している」
津音:「そんな彼女たちが従うA・Mというギルドマスターは、いったいどんな人物なの?」
《村崎・津音の言像更新(オーバーリロード)
:石川・V・ライト様が口の端を吊り上げました。笑っているものと判断します。
ライト:「小僧だ」
津音:「――え?」
ライト:「あの小僧は、『我が手に掴めぬもの無し』、と叫んだ」
ライト:「レベル一の小僧がだぞ?」
ライト:「この世界を何も知らず、右も左も分からぬ状態で、奴は世界に対して宣言したのだ」
津音:「それはまた青臭いことこの上ない」
津音:〈でも自然に応援したくなるのは、私も青臭いからかな〉
ライト:「うむ。その通りだ。しかし小僧は己の言葉を裏切らず、力を付けていった」
ライト:「最初に小僧の下に付いたのは“七本槍(セブンスピア)”のツートップ、シェックス・ファイルスピッツェと梅切・アグリだ」
津音:「魔女と突撃格闘師を……」
ライト:「魔女の方はかなりゾッコンだ。たまに会うが、小僧の傍を離れようとせん」
ライト:「無論“七本槍(セブンスピア)”筆頭としての立場もあるのだろう。秘書兼護衛、といったところか」
津音:「それは堪らないだろうね、周りが」
ライト:「撃墜数は星の数だが、一番星は落とせない、と嘆いていたがな、あの女」
津音:「うわあ。もしかしてA・Mって人、女の敵?」
ライト:「あの魔女が数奇者なだけだ。他にも数人いるが」
津音:〈そういうのを女泣かせと言うのでは〉
ライト:「梅切・アグリはそうでもないぞ? あれは戦闘狂でな。――なんだその目は。事実だ」
ライト:「第二世界出身で、『十拳』と名付けた秒間十打の必殺拳を用いる鬼女でな」
ライト:「小僧がその『十拳』を全て受け切ったから下についたらしい」
津音:「武闘派だ……」
ライト:「三番のエンノスヘキサに至っては重騎で攻撃を仕掛けたそうだぞ。小僧は瀕死になりながらも受け止めたようだが」
津音:「ハーレム作ってエンジョイしてると思ってたけど、結構苦労してるんだねA・Mさん」
ライト:「健気に頑張るところがいい、と魔女はノロケてきたな。頭おかしいんじゃないかあの女?」
津音:「えーと、パス一で」
ライト:「ふむ。ともあれ三番は攻撃を受け止めたA・Mに心酔、自ら騎士と王の関係を申し出た」
ライト:「次は四番目。且・カイ・乍という木精だ。この女はマトモだ」
津音:「それはそれで苦労しそうだね」
ライト:「その通り。他の連中のフォローで胃を痛めていたな。大して面白味もないから次に行こう」
津音:〈ひどっ〉
ライト:「五番はテンカワ・クロスリングス。こいつは馬鹿だ。以上」
津音:「いやいやいやいや」
ライト:「強いて特徴を挙げるなら“七本槍(セブンスピア)”の中で最もババァに近いことくらいか」
ライト:「ババァコールするとキレて機竜で砲撃してきたから気をつけるといい」
津音:「コールしたんだ……」
ライト:「弾みだ弾み」
津音:〈この人結構向こう見ずなところが……〉
ライト:「カロミページ・尸至という女が六番だ。会う度に名前が変わっているが、本人曰く多重人格だそうだ。奇人だな?」
津音:「パ、パス二」
ライト:「残り一つで罰ゲームだな」
ライト:「A・Mがこの女の人格全てを受け入れたため、配下と相成った」
津音:「あ、結構ロマンスかも」
ライト:「ただの浮気者だぞ。――パスするか?」
津音:「……そ、そうだね、浮気者だね」
ライト:「判断を誤らなくて幸いだ。七番目はチャン・シャン。色んな意味で小さい女だ」
ライト:「それがいいという男もいるそうだが、変態だな?」
津音:「そ、そうだね、変態だね」
ライト:「うむうむ。この小娘、A・Mに力を認められたことが余程嬉しかったのか、それ以来献身的に尽している」
ライト:「よってA・Mはロリ野郎だな?」
津音:「ロリ野郎、A・Mロリ野郎」
ライト:「何故マシンボイスに? ……まあいい」
ライト:「八番、一・ヒカリ。こいつはスケールが手の平サイズで、七番とは別の意味で小さい」
ライト:「よく魔女と口論しているが、九番の石川・ライメイが諌めている」
津音:「石川・ライメイさんは、ライトさんと同じ姓ですが――」
ライト:「何らかの関係があるのかも知れぬな。……ライメイは全方位忍術師だ」
ライト:「幾度か不意打ちで斬りかかったことがあるが、全て対応されてしまった。なかなかの手練だ。次は殺す」
津音:「…………」
ライト:「パスするか?」
津音:「う、上手くいくといいねっ!」
津音:〈ああああこれで私も人非人!〉
ライト:「貴殿もなかなか話の分かる人だな」
ライト:「最後はキルシュブルネン・ハウゼ。鬼女に劣らぬほどの戦闘狂で狂戦士だ」
ライト:「マイナス特性でよく血を吐いてダメージを受けているが、血気盛んで幸いだな?」
津音:「ええ、もうホントに……」
津音:〈勘弁して下さい……〉
ライト:「以上が小僧を支える者たちだ」
ライト:「皆一癖も二癖もある連中だが、ただA・Mに尽くすという点に置いては共通している」
津音:「恐ろしい組織ですね、『軍』は。そんな団結力があるなんて」
ライト:「ああ、恐ろしいな」
ライト:「小僧が道を違えたら、最悪だ」
津音:「それは――」
ライト:「小僧を止められる者がいないのだ、あの組織は。武闘派の鬼女や騎師でさえ、小僧を殺すことができない」
津音:「もし彼が道を違えてしまったら?」
ライト:「さあな。少なくとも、拙者は小僧に引導を渡してやるつもりだ」
《村崎・津音の言像更新(オーバーリロード)
:石川・V・ライト様は無表情です。それ以上を読み取ることはできません。
:円卓の下に人影があります。グッドイ主土方様です。
津音:「あの、ライトさん。……し、下に」
ライト:「む? ――ッ!」
グッディ:「やっと気付いたか」
グッディ:「お前話に熱中するのはいいけどよ、言像更新(オーバーリロード)はちゃんとしとけよ?」
グッディ:「スカート捲ったりパンツ脱がしたり履かせたり頬ずりしたりしても無反応ってのは自分が透明人間になってるようで――」
グッディ:「たみしいじゃねぇかぅぱっ!?」
津音:〈飛んだんだろうな、きっと……〉
ライト:「切る斬るキルKILL!」
グッディ:「落ち着け胸を揉めば分かる! ――っと!? 二人とも言像更新(オーバーリロード)しろ!」
ライト:「何を――」
《村崎・津音の言像更新(オーバーリロード)
:部屋が揺れています。
:外部からの攻撃による衝撃と判断します。
ライト:「敵襲か!!」
《村崎・津音様の言定議状態(ボードモード)を終了します》

◯「村崎・津音の言解議状態(サイトモード)『航空輸送艦“ルソン”表層・甲板にて』」◯
《村崎・津音の言像更新(オーバーリロード)
 甲板に飛び出すと、蒼穹に白の線を描くミドルグリーンの一隊が視界に飛び込んでくる。
「あれは……!?」
 津音の疑問に、隣に並んだライトが答える。
「ハルピュイアだ! ……三機か!」
 上半身に人の姿を持つ機械鳥・ハルピュイア。
 機械鳥の内では小型に分類されるアクティブモンスターだが、その全長は人間とほとんど変わらない。
 それら三機編成の一隊が、“ルソン”の上空から攻撃を加えている。
 モンスターは一機を先頭に置いたV字飛行形態で上空を旋回中。
 “ルソン”に向かって急降下し、機体両翼下部から鋼鉄の弾丸を撃ち込んで行く流れだ。
 一方“ルソン”側の対空戦力と言えば、
「先の戦闘で“ルソン”の装甲がかなり削られてるからな。
 俺一人で相手してたら幽霊船になっちまうな、これは」
 機殻狙撃銃(カウリングスナイパーライフル)“フレイムコード”を空に向けて呟くグッディを尻目に、ハルピュイアは“ルソン”の装甲を着実に削っていく。
《村崎・津音の言像焦点(オーバーズーム)
 グッディの表情に焦りはない。微笑さえ浮かべている。
「何故……!?」
 ――こんな状況で笑っていられるの!?
 津音の思考を断ち切るように、隣でライトが跳び上がった。
 機殻忍者刀(カウリングニンジャソード)“スティールカッター”を踏み台にしての跳躍は、忍術師特有の体術だ。
「これで戦力は二倍だな!」
 大跳躍で上空のハルピュイアに追いついたライトは、鞘に収めた“スティールカッター”の柄に触れ、
「――ァッ!」
 抜刀。
 銀の弧はV字の左翼を構成する一機のハルピュイアを通過し、
『――――!?』
 抗議の悲鳴を上げて二つに分離。
「また無益なものを斬ってしまったな」
 ライトは空中で二分されたハルピュイアに足を向け、機体の爆散によって生まれる衝撃を利用し離脱。
 直後、今までライトがいた空間を鉄の塊が通り過ぎて行く。
「委員長! このままの軌道だとライトが真っ逆さまだ! 三時の方向!」
 グッディが艦長室に向かって叫ぶ。
「わかった! “ルソン”、拾いに行ってや! ――加速するから皆伏せて!」
 津音は一瞬反応が遅れたが、いつの間にか背後に回り込んでいたグッディによって後頭部を掴まれ、そのまま甲板に押し倒される。
「痛っ……!」
 機体が加速し、圧力が伏せた身体に襲い掛かる。立っていれば吹き飛ぶほどの圧力だ。
「スマン、許せ」
 グッディにウインクを寄越され津音は赤面。
「いやあの、……すいません。あ、いや、ありがとうございます」
「貴様ー! 他所様の頭を掴んだ上に叩きつけるとは何ということをー! 殺すー!」
 ライトの叫び声が聞こえ、津音は顔を青く変色させる。
「あれで嫉妬してるんだぜ。可愛いだろ? ――モテる男はツラいぜ」
 小声で囁かれた津音は半目に。
「今お似合いだ、って思ったな? ――その通りだ。よっ、と」
 まだ加速の圧が続く甲板で、グッディが立ち上がった。
「え――!?」
 驚愕に目を見開く津音に、グッディは親指を立てて見せる。
「こういう不安定な足場を踏破するのが忍術師でね。ライト、今行くぞ!」
 言うなり、グッディは甲板を疾走。
 ライトをキャッチするため、高速で移動する甲板の上を駆けて行く。
 時を同じくして、仲間を破壊されて怒り狂ったハルピュイアがライトに弾丸をばら撒いた。
 落下しているライトは抜刀で飛来する弾丸を切り落とすが、
「流石に数が多い!」
 断ち割り損ねた弾丸がライトの額に迫る。
「――ライト!」
 甲板を疾走するグッディが懐に手を入れ、抜きざまに“それ”を投射。
 苦無だ。
 投射された苦無はライトの眼前で弾丸を弾き飛ばし、苦無だけがその場で回転を始める。
「忝ない!」
 ライトは眼前で回転する苦無を掴み、バックハンドでハルピュイアに投擲。
 苦無はハルピュイアの銃口に吸い込まれ、火を噴き上げる。
 直後に生まれた小爆発と同時にグッディが跳躍。
 宙でライトの腰に手を回して引き寄せ、
「胸に手を伸ばすな!」
 ライトはグッディの顔面に肘打ちを入れ、空中で顔を足蹴にしつつ甲板に着地。
「凄い……」
 加速の圧が抜け始めたため、ようやく津音は立ち上がる。
「ふふ、拙者にかかればこの程度の敵……」
「現状リアル縁の下の力持ち的存在の俺を無視してねえか? パンツ見えるから我慢するけどよう」
 グッディの顔面で積極的な踏み絵ダンスを始めたライトに津音は表情を失うが、
「まずい!」 
《村崎・津音の言像焦点(オーバーズーム)
 ライトたちの直上、二機のハルピュイアが急接近しつつある。
 放たれるであろう弾丸を彼らに当てず、かつ甲板――“ルソン”にも当てない方法は、ただ一つだ。
 決断は一瞬で完了。
《村崎・津音:ゴッド・オブ・ラック:発動:認識上昇:詞速(ラン)
 二人に駆け寄りながら、己の詞を詠唱。
 詞を謡いきると、ハルピュイアたちの動きが“読み”取れるようになる。
 “ルソン”の軌道とハルピュイアたちの軌道、さらに自分自身の軌道を計算し、
「ゴメンなさい!」
 スライディングで二人を蹴り飛ばし、突撃してくるハルピュイアに対してドリルを構える。
「幸運よ、私を導いて――!」
 右手に装着した量産型機殻掘削機(カウリングドリル)“剛力”が唸り、左手は暴れる右腕を支える。
 五回の使用で砕けるドリルで、同型のストックは四つ。
 合計二十五回の攻撃で、撃ち込まれる弾丸を全て弾く。
 相手の銃口一つが苦無によって破壊されていることを差し引いた上で、ドリル換装の時間を考慮すると、
 ……それでもやっぱり無茶ね!
 思うが、津音は逃げない。
 理由はわからない。
 ただ無心で、空を見る。
『――――!』
 ハルピュイアが吠え、青い天井に鈍色の雫が産み落とされた。
 破壊の雫は、目にも止まらぬ速度で津音に突き進んでくる。
 空気を引き裂いて進む破壊の雫を、津音の瞳は認識する。
「――見える! 私にも弾丸が見える!」
 叫び、津音はドリルを高速で弾丸に突き出していく。
 弾丸は誰にもヒットすることなく宙へ消えていく。
 瞬く間に耐久限界を迎えた“剛力”が破砕消滅。
 硝子が割れるような音を立てて砕け、透明化。
「次!」
 “剛力”を装着し、引き続き弾丸を迎撃。
 視界に弾丸が増加し、処理能力を試す。
 騒音が狐耳に撃ち込まれ、脳を刺激。
 しかし冷静に弾丸を迎撃し続ける。
「次っ!」
 破砕音と共にドリルを構える。
 金属同士が互いの力を競う。
 ドリルの力は勝ち続ける。
 五度の勝利と共に砕け、
「まだよ!」
 次のドリルを装着。
 敵が眼前に迫る。
 雫も残り僅か。
 故に、叫ぶ。
「行けるわ!」
 確信を。 
 回す。
 が、
「――自滅覚悟で突撃してくる気!?」
 二機のハルピュイアは、片翼を失ったV字飛行形態のまま、降下を止めない。
 津音は咄嗟に立ち上がり、ドリルを天に構える。
「貫け――――!」
 だが、先頭のハルピュイアはドリルから逃れるように直前で翼を傾け進路を変えた。
「しまっ――!?」
 焦る津音の叫びを打ち消すように、乾いた銃声が響く。
 銃声と共にハルピュイアが弾かれ元の軌道へ。
 津音が視線を銃声の鳴った方へ移すと、狙撃銃を構えたグッディが親指を立てている。
 津音は無視した。
 ドリルを構える腕に力を込め、
「当たれっ!」
 津音の“剛力”が、ハルピュイアの頭部に吸い込まれるように回転の力を打ち込む。
 ドリルで削られるハルピュイアが、己の軋みを歌に変えて絶叫。
 今までで最大の騒音が至近で奏でられ、津音はふらつきそうになる。
「――くぅ……ぁ!」
 狐耳を伏せて堪えていると、ドリルの耐久に目が行った。
 残り一だった耐久はハルピュイアの破砕音と共に零となり、
「まだ一機残って――!?」
 青ざめる津音の足元を、拡大する円陣が駆け抜ける。
 それは、
《シェド・セイヴレフティ:ゴッド・オブ・カスケット:発動:追加ドロップ:詞速(ラン)
「こっからはホンマのホンマに運試しやで!」
 シェドの叫びと共に、ハルピュイアが完全に消滅する。
 範囲内で起こる死に対し追加ドロップを発生させるゴッド・オブ・カスケットの効果に従い、津音のアイテム詞窓(ウィンドウ)に“それ”が産み落とされる。
 表示されたアイテムは、
「――――!」
 津音はアイテム詞窓(ウィンドウ)を叩き割る勢いで左拳を振り下ろす。
 快音一つで彼女の右手に現れたのは、
機殻掘削機(カウリングドリル)“回転皇”……!
 何よコレ、MP消費するけど耐久無限の激レアアイテムじゃない……!」
 エメラルドグリーンのドリルは津音の声を受けて回転を開始する。
 その回転は風を生み、
「ハルピュイアがドリルに引き寄せられている……!?」
 津音の驚きに“回転皇”は喜ぶように回転速度を跳ね上げる。
 ドリルに作られた暴風は“ルソン”さえ振動させる。
「気に入ったわ“回転皇”! 今ここに貴方の存在を刻みなさい!」
 津音はアイテム詞窓(ウィンドウ)に並ぶアイコンの一つを殴る。
 すると彼女を包むように青白い光が広がり、

 ・――文字は力を持つ。

「使い捨ての概念条文! 超高いんだから!」
 光の粒子を纏った津音が、ドリルでハルピュイアに文字を掘っていく。
 刹那で全てを掘り終えた津音は、全身を捻り頭上のハルピュイアに蹴りを放つ。
「見えた――!」
「死ねえ――!」
 男女の叫び声が津音の耳に届いたが、聞き流す。
 蹴り飛ばしたハルピュイアが高速で空に駆けて行く様を見つめ、五秒。
 第三世界区画の上空に、赤い花が咲いた。
 遅れて大音響が“ルソン”に落ちてくる。
「たーまやー!」
 艦長室からシェドの喜声が上がった。
 光で作られた花を見て、津音は微笑。
 高速で掘り抜いた文字は、“打ち上げ花火・残り五秒”だ。
「これからよろしく、“回転皇”」
 赤い光を受けながら、エメラルドグリーンのドリルは静かに回転を止めた。
《村崎・津音様の言解議状態を終了します》

◯「村崎・津音の言解議状態(サイトモード)『市街地にて』」◯
《村崎・津音の言像更新(オーバーリロード)
 天上、雲を散りばめた紺碧の空に、一つの光点がある。
 黄金の光によって鋼鉄の大陸を彩るのは、月の双子たる太陽だ。
 太陽の輝きで装飾された市街は、行き交う人々に活気を与える。
 そんな街の中央、機械仕掛けの神殿の前に、四つの人影がある。
「どうもありがとうございました」
 他の三人に向かって腰を折るのは、人狐族の高速削岩師(ハイスピードドリラー)、村崎・津音だ。
 顔を上げ、
「でも、本当に貰っていいんですか? このドリル」
 機殻掘削機(カウリングドリル)“回転皇”を右手に掲げ、津音は問う。
「それに見合うだけの労力は頂きましたよって」
 津音の正面、眼鏡の下で目を細めて言うのは棺を背負った死霊術商人(ネクロマンスマーチャント)のシェド・セイヴレフティ。
 シェドの右隣に立つ暗殺狙撃師(アサシンスナイパー)のグッドイ主土方が親指を立て、
「実にいいパンツだったぜ」
 津音は無視。
 シェドの左隣から瞬時にグッドイ主土方の正面に移動した剣撃忍術師(ソードニンジャ)の石川・V・ライトは彼に忍者刀を突き付けつつ、視線だけを津音に。
「貴様も懲りない男だな。――津音殿、これに懲りず、また拙者らと共に戦ってはもらえないだろうか」
「もちろん」
 ――こういうのも悪くはない。
 津音はその想いを表情に滲ませ、三人と言葉を交わす。
 しばらくして、機械仕掛けの神殿に備え付けられた大時計が鐘を鳴らし定時を報せる。
 それを合図に、津音と商人たちは別れを告げる。
「また世界のどこかで」
「再び巡り逢う日まで」
 そして背を向け歩き出す。
 振り返りはしない。
 恐らく彼らもそうだろう、と津音は想像する。
 何故なら、舗装された道が陽光を受けて輝きを放ち、次なる目的地への期待を膨らませるからだ。
 振り返る暇が惜しい。前へ進みたい。
 そういった想いが、津音の心中を埋めている。
 人と機械が生み出す音色が耳に届き、気分を高揚させる。
 足取りは軽く、津音のパンプスが街に陽気なリズムを加える。
 すれ違うNPCの侍女型自動人形たちに笑顔を送り、さらに前へ前へ。
 彼女の足は、自然に繁華街へ進む。
 そこは、この世界の住民だけの場所ではない。
 津音のように、異なる世界からやってきた人々が集まるところだ。
 一見して雑多な印象を与えるその空間は、津音の心を弾ませる。
 上空を浮遊する鋼鉄の船舶群が道に影を作るが、その影すらせわしなく飛び去っていく。
 津音は自身の頭上を駆け抜けていった影の主を見て目を見開く。
「――うわ、今の影って『アルゲス座』のクラーケン級劇場型四隻艦隊じゃない!
 珍しー、記念に金羊毛素材の衣装でも買おっかな」
 人の群れに潜り込んだ津音は上機嫌で周囲を見回した。
《村崎・津音の言像更新(オーバーリロード)
 人々が作る波の中、ふと、一体の女性型自動人形が津音の視界に入った。
 背に二双の黒翼を持つ少女の髪は、翼と同じく黒一色。
 瞳の色は、血のように鮮やかな赤。
 彼女は虚空を眺め無表情。
 その瞬間、
「――え?」
 強烈な既視感が探索者を襲った。
「何よ、これ」
 言いようのない感情が、津音の胸を焦がす。
「どういうこと……?」
 一人疑問する間に少女は波に飲まれ存在を消していく。
「待って!」
 津音は咄嗟に叫び手を伸ばすが、少女を捕まえることはできない。
「きっと……」
 人波を掻き分けて少女の元へ駆けるが、既に少女は掻き消え何処にもいない。
「きっと見つけるから――!」
《過度の精神的衝撃を受けたため強制ログアウトします》

Real World

● 現実世界・夢を彩る都市 ●

◇「彼女の現実『或る女の研究室』にて」◇
 目を開けると、闇が広がっていた。
「――ん」
 思考に靄がかかったようにぼんやりしている。
 寝起き特有の現象だ。
 そう理解した瞬間、自分がアルゲスの書斎型プレイ端末の中にいることに気付いた。
 暗闇の中、わずかに霞んで見える電光表示板には、エラーメッセージが流れている。
「――って、泣いてるのか私」
 頬を伝う水滴に手を伸ばそうとして、
「確認することはそっちじゃない」
 首を振って目を瞑る。
「……私、あの娘や先生に会えたのかな」
 記憶を探索する。
 だが、
「思い出せないよ」



《INDIVIDUAL MISSION》
Release a black swan with Abel.






...Mission Incomplete.