電影都市−アルゲス プレイログ『私の護身完了』





● 電影都市−アルゲス・第三世界区画 ●

◯「ドリーナヤ・フヴォストの言解議状態(サイトモード)『“五菱(ペンタグラムダイヤモンズ)本拠地(ホーム)春日山城(ヴィスナー・クリェームリ)”にて』」◯
《ドリーナヤ・フヴォストの言像更新(オーバーリロード)
 夢を見ていた。
 ただの夢ではない。速読歴(ファストリーダー)が見る夢は、時虚(じくう)遺伝詞(ライブ)を先読みする予知夢だ。
 本来ならば幾つもの情景が無秩序に交錯し、起きた時には曖昧にしか分からなくなってしまうそれは、このゲームの中では伝式四十七符(テリングフルカード)に合わせて纏められ、表詞される。
 意識が覚醒する。
「……寝落ちしてたー」
 目を開けると、目の前に一枚の詞窓(ウインドウ)が出ていた。そこには三枚の(カード)が表詞されており、
「……また縁起の悪い予知したなあ……」
 まあいいや、と予知の解読は後回しにして、まだ眠気の残る頭を起こすべく、首を振る。
 首を振るついでに見回せば、そこは自分の執務室だ。東洋風の畳敷きの室内には書類や己動詞角錐体(プログラムトライゴン)が散乱しており、布団の敷いてある自分の周囲以外は足の踏み場も無い。
「掃除しないとローがうるさいかなあ……」
 呟きつつ、ん、と大きく伸びをする。獣じみた動作は現実(リアル)での種族的な癖だ。純血の長寿族であるアルゲス(こちら)の身体にはそぐわぬ動作だが、
「身体に染み付いた動きは忘れられない、と」
 それもまた面白い、とドリーナヤは思う。この電影都市―アルゲスのOSはどうなってるのかな、とも。
 何しろ、アルゲスにログインするようになってから随分と経つが、いまだにその中枢、電詞遊戯(ヴァーチャルゲーム)を隠れ蓑にした大掛かりな計画の真意には辿り着けてはいない。
 現実世界においては『ダイヤの女王』と呼ばれる自分ですらも、だ。他、スペードやクラブの女王や東の大旦那、月見王なども色々とアタックを仕掛けているというが、何も判明していないらしい。
 たかがゲームにこれだけのセキュリティはあり得ないので、何か壮大な計画があると思われるのだが、
「なんかどーでもよくなってきたなあ……」
 と思うのはこのゲームが面白いからだ。
 現実とは異なる環境で、新しい自分が、知らない誰かと協力し、対立し、少しずつ成長していく。
 日本の黒歴史ジャンルの小説でよく見る『転生者』という感じで、実に楽しい。
 特にKGB(チェキスト)がいなくて暖房完備なところが最高だ。ただ冬将軍と長く付き合ってきた自分には少々暑過ぎて、かなり薄着になってしまって秘書役のローによく怒られるのだがそれもまた面白い。子供の頃に母親がいればこんな感じだったのだろうか、と本人に知られたら激怒しそうなことを考えるのもすごく楽しいし、ジンゴロウ爺さんと一緒に浪漫溢れる重騎を設計するのもとても心踊る。ノギロは酒飲み友達としてすごく優秀だし、21は変な名前で、ダンゾーは童貞臭くてからかうと面白い。グロは結構外道で話が合うし、備前はイカレっぷりが心地よく、小太郎のピュアハートには心が洗われるし、キリアの猪突猛進ぶりはもはや芸術的ですらあり、ヤスは死神無双過ぎるがなんだアレ。
 他にもたくさんの個性的なギルドメンバーがいて、そんな皆と共に活動できるということとが楽しくてたまらない。
 だから、
「もはや貴重となった私の時間を消費するのに悔いは無い、と」
 自嘲気味に呟く。
 するとノッカーの音と共に声が届いた。
「マスター? お目覚めですか?」
「起きてるよー」
「では失礼します――ってなんですかまたこの惨状は! 掃除! 今すぐ掃除を――ってなんて格好してるんですかマスター!?」
「わあ相変わらずオカン気質ー」



《ドリーナヤ・フヴォストの言像更新(オーバーリロード)
 入ってくるなり騒ぎ始めたのは、第一世界区画出身の長寿族で、しかし身体のほとんどを義体化した女だ。
 金属の硬質を持った灰色の髪がウサギの耳のように跳ねている彼女は、製造系ギルドである五菱(ペンタグラムダイヤモンズ)の中核である職人五人衆“裏五菱”の一人、紋章部長である紋章職人(エンブレムマイスター)のロークワット・スルガ。紋章彫刻の効率化のために全身義体となったという猛者であり、職人としての仕事の他にドリーナヤの秘書役も兼務している。
 彼女は、足元に散らばる書類や己動詞角錐体を綺麗に整理しつつ、
「マスター! 色々と言うことがありますがまずは服を着てください!」
 言われ、ドリーナヤは部屋の隅に置いてある大きな姿見を見た。
《ドリーナヤ・フヴォストの言像焦点(オーバーズーム)
 鏡に映るのは、金の長髪を馬の尻尾のようにまとめた長寿族の少女だ。空気抵抗が少なそうな効率的なボディには衣服を身に着けておらず、ただ申し訳程度に胸を療符(バンテージ)で、股間を錠符(マエバリ)で隠している。
 ドリーナヤはそんな自分の肢体をじっと見て、うん、と頷き、
「――さすが私! これならいつ踏み込まれても獣詞変(オルタード)で即脱出可能!」
「何を言ってるんですかぁ! マスターは私と同じ長寿族で獣詞変なんて出来ないでしょう!? ――いいから早く服を着てください!」
 ほら!と手渡されるのはフリル特盛りのゴスロリで、
「ロー……そういうのは自分で着れば?」
「わ、私にそんな愛らしい服が似合うわけないでしょう!? ――でもマスターには似合います。だから着てください。というか着なさい。着ろ」
「命令系になった!? ……まったく」
 服を受け取り、
「仕方がないにゃあ……」
 苦笑交じりに言った台詞にロークワットが食いついた。
 アイテム詞窓(ウインドウ)から録画機材を取り出し、
「マスター今の台詞をもう一度!」
「え? ――仕方がないにゃあ?」
「違います! もっと恥じらいと嫌気を! もっと!」
「……ロー? あんまりしつこいと警察呼ぶよ?」
「――仕方ないですね。ではこちらのフリル少なめの方を」
「最初っからそれ出しなさいなー」
 言いつつ、差し出された萌黄色の貫頭衣を着込む。
 その様子をロークワットが息荒く撮影しているがそれぐらいはサーヴィスだ。個人で楽しむ分には合法。
 合法合法、と念じつつ着替えを終えて、
「それで、何か用でもあった? “オリンポスハンド”から依頼されてた重騎(ヘビィバレル)用剣撃補正己動詞(プログラム)ならそこら辺に転がってる己動詞角錐体のどれかだけど」
「ちゃんと整理してください。――ジンゴロウ翁が、“軍”から依頼されていた新型重騎の図面が完成したので見て欲しいとのことです」
「あー、それか。それは……」
 ふと、夢見の予知が脳裏をよぎった。
 三枚の符が表詞された詞窓を引き寄せる。
 そこに並んでいるのは、
(ストレングス)背徳者(ディスアバター)言詞塔(バベル)ですね。……予知ですか?」
「ん。さっき見た。意味は恐らく――」
 しばし考え込み、
「――“軍”から請けてる仕事、今、どのくらいある?」
「え? ……そうですね。先ほどの重騎の新造の他は、機竜の追加武装と機殻斧の改造ぐらいでしょうか」
「現在外出してるメンバーは?」
「“表五菱”の面々が、機竜狩りに。他はいつも通り引き篭もってるかと。……あの、それが何か?」
 不安そうなロークワットに、ドリーナヤは笑顔で答えた。
「大したことじゃないよー。
 ――“軍”からの仕事は全部キャンセルして。“表五菱”が帰還次第、ステルス航行で本拠地移動するから通達よろしくね」
「……マスター、実はまだ寝ぼけてますか?」
 半眼で言うロークワットにドリーナヤは即答しない。
 三枚の符を表詞する詞窓を手の中でこねながら、
「“ペンタグラムダイヤモンズ”社訓第一条は?」
「――中立主義」
「第二条」
「――金の切れ目が縁の切れ目」
「第三条」
「――安い仕事はするな」
「第四条」
「――地獄の沙汰も金次第」
「第五条」
「――過度の貯蓄は経済の敵。
 ってこの割と最悪な社訓を何処まで言わせるつもりですかマスター」
「えー……いい言葉だと思うんだけどなあ……」
「本気でそう思ってるのは多分マスターとグロッケ様だけです。ともあれどういうことでしょうか、いきなり“軍”の仕事をキャンセルするなど……、仲介に入っている“世界交商学団”からもクレームが来ますよ?」 「来ないよー」
 即答で断言した。
 思わず息を呑んだロークワットに、ドリーナヤは問う。
「――社訓第七十七条は?」
「…………」
 彼女はしばし口を閉ざし、やがて観念したように口を開き、
「……死人に口無し、でしたね」
「正解」
 ドリーナヤは笑顔で応えた。
《ドリーナヤ・フヴォスト様の言解議状態(サイトモード)を終了いたします》


◯「断蔵・ブラックカイトの言解議状態(サイトモード)『“春日山城(ヴィスナー・クリェームリ)”第三階層“迎撃領域(インターセプトルーム)”』にて」◯
《断蔵の言像更新(オーバーリロード)
 五菱ペンタグラムダイヤモンズ本拠地ホームである“春日山城(ヴィスナー・クリェームリ)”はジズ2000m級の大型航空戦艦だ。
 元はワイバーン30m級だったが、人員の増加に伴う増改築を繰り返した結果、最終的に第五世界の陸塊を組み込むことでこの規模に至った。
 もはや一つの街ともいえるその内部に、現在、侵入者が入り込んでいる。
 忍者達だ。
 黒や灰、柿色の忍装束に身を包んだ忍術師達が、“迎撃領域(インターセプトルーム)”と呼ばれる大部屋で対峙していた。
 だが何も無い室内で相対する忍者達の中、五菱の家紋ギルドマークをつけた忍者は一人しかいない。
 “裏五菱”の末席であり、建築部長と忍団長を兼務する忍術建築師ニンジャビルダー、断蔵・ブラックカイトだ。
「――さてさて、きっちり追い詰めさせてもらったわけだが、何処の手のものであられるかな」
《断蔵の言像焦点オーバーズーム
 十二人の忍者達のうち、頭目格と見られる一人が答えた。
「言うと思うのか?」
「社交辞令だ。……好んで他所の組合ギルド本拠地ホームに不法侵入するような連中が、素直に吐くはずもないからな」
 断蔵は吐息を一つ。こちらの隙を狙う忍者達を油断なく見据えながら思う。
 ――最近はこういう輩が多くなった。
 製造ギルドの本拠地は宝の山だ。作っている製品そのものも魅力的だし、それらの設計図面やスペックデータなどの情報も高く売れる。装備の取引記録から顧客の装備情報を割り出せるし、素材の取引記録から狩りをするギルドのスケジュールなども把握できる。
 だから製造ギルドには忍術師ギルドなどに防諜を依頼したり、自前で忍団を結成するなどの対策が求められる。
 五菱の忍団『鍵要らずの祭壇No Key’s Altar』もそのために結成されたものだ。
 ――拙者は好き放題に忍者屋敷を作っていられるのであれば、それで充分なのだがなあ。
 困ったものだ、と思う。面倒臭いな、とも。
 しかしこれも仕事だ。さっさと終わらせて魔改造を再開しよう。ノインハルス殿に協力頂いた空間連結式隠し通路の整備を急がねば。「甲板のどんでん返しを抜けたらそこは第三艦橋だった」なんて皆ビックリするだろう。フッフッフ。
「――さてさて、それではとっとと終わらせようか」
 告げると同時に断蔵は武器を引き抜く。
 それは小型の双鎌だ。第二世界区画で刻まれた名はそれぞれ“磐裂”と“根裂”。
 どちらも断裂を意味する力の名前だ。
 そして二つの刃を打ち鳴らせば、

・――名前には力がある。

 刃に仕込まれた姓名概念が室内に力を展開すると同時、敵が動いた。真っ先に真正面から来るのは刀を手にした男で、
「――大言をほざくな! たかがLv2の忍術師風情が……!」
 さらにそれをカバーするように左右から一人ずつが迫る。
 断蔵は三人の動きをしっかりと見据え、
《断蔵:インペリアル・オブ・シャドウ:発動:影渡り(シャドウムーブ)詞速(ラン)
 三人を無視して影を渡り、その後ろの九人に切り込んだ。
「何ィ!?」
 驚く一人の首を鎌で引っかける。
「まずは一人」
 振り抜いた。
一撃必殺(Critical Kill)!!》
 一撃で絶命した忍者の首が落ちる。
「えっ」
 自分達よりも忍術師として低レベルの者に一撃で殺された。
 そのことに思考が追い付かず呆けた声を上げた忍者の首に鎌を当て、
「――! 総員散開! 距離を取れ!」
 頭目格が指示を出すより早く刃を引いた。
一撃必殺(Critical Kill)!!》
 首が落ちる。
《断蔵の言像焦点オーバーズーム
「二人目。……あと十人とは面倒だな。お主ら、この場で割腹してみてはどうだ?」
「……一体どんなカラクリだ!?」
「姓名概念だ」
《断蔵:インペリアル・オブ・シャドウ:発動:影渡り(シャドウムーブ)詞速(ラン)
 告げると同時に影を渡って接敵し、
「拙者の名は断蔵。姓名概念を展開した今、拙者は“蔵断ち”の力を持っている」
 両手の双鎌をそれぞれの首にかけ、
一撃必殺(Critical Kill)!!》
一撃必殺(Critical Kill)!!》
「蔵は重要物、つまりは命の比喩なれば、拙者の一撃は命を断つ」
 振りぬき様に次の二人の首に当て、
一撃必殺(Critical Kill)!!》
一撃必殺(Critical Kill)!!》
「さらには拙者の姓は(ブラックカイト)
 残り六人となった忍者達が逃走にシフトするが逃がさない。
「“鳶に油揚げをさらわれる”のことわざに習えば、拙者の一撃は不意を打つ」
《断蔵:建築技能(ビルドテック):機巧発動:落とし穴起動:詞速(ラン)
 唐突に床に開いた穴を避け切れずに二人が落ちた。
奈落落ち(Fall Down)!!》
奈落落ち(Fall Down)!!》
「ちなみに下は兵器実験場だ。今の時分ならば機甲部が重騎用長銃の射撃実験をしているところだろう」
 同時に爆音と悲鳴が響き、
『部長! 上からなんか落ちてました!』
『おお、客か? でももう撃っちまったしなあ。……よーし、試験続行!』
『Jud.!』
 穴が閉じた。
「――廿一(はたかず)殿はまた相変わらず大雑把な」
 呟きつつも残り四人に斬りかかる。
《断蔵:建築技能(ビルドテック):機巧発動:槍衾起動:詞速(ラン)
 と見せかけて迎撃機巧を起動。
串刺し(Tepes)!!》
 しかし、壁から飛び出した槍に引っかかったのは一人だけだ。
 逃れた三人のうち、まだ存命していた頭目格が、
「……思い出したぞ。五菱(ペンタグラムダイヤモンズ)には、黒刎頸(ヴォーパルシャドウ)字名(アーバンネーム)を持つ凄腕の忍者がいると……」
「拙者がそうだとは思わなかったようだな。まあ周知の通り、忍術師としてはLv2なのだから無理もないが」
「ブラフというわけか」
「忍者とは忍ぶ者なれば、隠すのは当然だろう。それと、……時間稼ぎはやめておけ」
 断蔵はの言葉に頭目格が顔を引きつらせ、残る二人が後ろ手で鍵盤(キーボード)を叩くのを止めた。
「この“迎撃領域(インターセプトルーム)”は電詞的に隔絶されているのでな。詞片(メール)を送ることは出来んし、拙者の許可無しに出ることも不可能。……此処に追い込まれた時点で貴様らは負けておったのだ」
「……そのようだな」
 うなだれ、だが、頭目格は続け、
「我々にも忍びとしての矜持がある。――生きて虜囚の辱めは受けん!」
「――Tes.!!」
 残る二人が契約の言葉を叫び、三人は同時に奥歯を噛み締めた。
「!」
《断蔵:忍術/建築技能:連携発動:畳返し:詞速(ラン)
 断蔵は反射的に耐爆仕様の床板を跳ね上げた。
 直後に爆発。
「――――っ!!」
 三人の忍者が自爆したのだ。さらには室内に散らばる七つの死体と、階下に落ちた二人も連鎖爆発。
《断蔵:忍術/建築技能:連携発動:畳返し:詞速(ラン)
《断蔵:忍術/建築技能:連携発動:畳返し:詞速(ラン)
《断蔵:忍術/建築技能:連携発動:畳返し:詞速(ラン)
《断蔵:建築技能:発動:隔壁解放:詞速(ラン)
 断蔵は四方に壁を立てると同時に外部に繋がる隔壁を解放。
 十の爆発の熱波と衝撃を外部に流して耐え抜いた。
 爆発が収まったところを見計らい、断蔵は床板を戻しつつ周囲を見渡し、嘆息する。
「……同じ忍びとして、その潔さだけは認めよう。無意味だが」
 “春日山城(ヴィスナー・クリェームリ)”の内部には作業中の事故対策として、“表五菱”の死霊術師(ネクロマンサー)、ヤスダ・アインフースの手によって火車結改(シール)が張られている。
 その効果は、
「――死者の霊魂を城内の“資料室”に留める」
 通常、死んだ者は死亡場所の世界か出身世界の冥界に送られ、そこで黄泉還りクエストをこなさなければ復活できない。
 だが火車結改が張られている場合、死者は霊魂として指定された場所に拘留されることになる。
 そして比較的黄泉還りクエストが楽な第四世界に運ばれ、蘇生するのだ。
 とはいえそれは組合構成員(ギルドメンバー)の場合だ。今回のような不法侵入者の場合は、侵入して以降の記憶を奪ってからリリースする。
 断蔵はその手続きを考えて憂鬱になった。記憶消去の術は準備が面倒なのだ。
 はあ、とため息をつく。
「――自分の好きなことだけやって生きられたらいいのだがなあ」
《断蔵・ブラックカイト様の言解議状態(サイトモード)を終了いたします》



◯「八十八九十九・廿一(やそばつくも・はたかず)言定議状態(ボードモード)『“春日山城(ヴィスナー・クリェームリ)”』にて」◯
《廿一の言像更新(オーバーリロード)
:ここはギルド航空戦艦“春日山城(ヴィスナー・クリェームリ)”の記常頁(トップページ)“第四階層・兵器実験場”です。
:奥行き三千ヤードほどの拡張された空間です。耐爆仕様の床壁に、障壁発生の力場放出器(パワーポイント)が百ヤード毎に設置されています。
:自動展開された防御障壁のお陰で、先ほど落ちてきた忍者二つの自爆による被害はありません。
銃器専攻(ガンスミス)機甲職人(アームドマイスター)である部下達が、射撃試験を完了した試作型重騎用長銃のチェックを行っています。
廿一:「おいコラ断蔵、テメェの仕事はテメェの部屋で片付けとけよ」
断蔵:「すまんな。少し遊んでしまった」
《廿一の言像更新(オーバーリロード)
:天井が開いて上の階層から忍者が一人飛び降りてきました。
:断蔵・ブラックカイト様です。
:断蔵様は頭を下げています。撫でて欲しいのだと判断します。
廿一:「おい断蔵、そのモーション、OSには“撫で撫で要請ポーズ”って認識されてんぞ」
断蔵:「OSの設定は御館様の趣味だから仕方もあるまい。前に直してくれと言ったら“面倒臭いから自分でやって”とか言われてな……」
断蔵:「拙者、理術師(プログラマー)技能(テック)など習得していないのだが」
廿一:「姫ちゃんは誰かに謝られるの嫌いだからなあ……。まあ、可愛い韜晦だぜ」
廿一:「ともあれ俺には無害だけどな」
断蔵:「何故?」
廿一:「品行方正な俺は誰かに頭を下げる必要が無くてな」
断蔵:「先日、試作型重騎用手榴弾の誤爆で機甲部の作業室を半壊させたことについては?」
廿一:「俺は悪くない。悪いのはあの程度の爆発で半壊する部屋の方だ」
廿一:「――つまり謝るべきはオメェの方だ……!」
断蔵:「単刀直入に言うが最悪だな貴様!」
断蔵:「――と」
廿一:「どうした? 今なら土下座一発で許してやるぜ?」
断蔵:「絶対にしない。――御館様からの詞片(メール)だ。そちらにも届いているはずだが」
廿一:「ん? お、確かに来てるな」

■「ドリーナヤの詞片(メール)『各部長へ』――――■
 皆元気に金儲けしてるー? してるね。よしよし。
 後でローから連絡行くけど、“軍”との取引全部打ち切るからよろしく☆
 今作ってるものは仕上げちゃっていいけど、これから手ーつけるんだったら放っておいてねー。
 あと、今の“春日山城(ヴィスナー・クリェームリ)”の所在がバレバレなんで、そろそろステルス航行で本拠地(ホーム)移動するよ。外出中の皆が帰ってきたら即出航するから今のうちに荷造りとかしとくよーに。
 移動先は第五か第二か第一、あるいは第八ってところかな。あとで会議して決めよーね。
 以上、ギルドマスターからの通達でした。

《廿一様の言定議状態(ボードモード)“第四階層・兵器実験場”に戻ります》

◯「八十八九十九・廿一(やそばつくも・はたかず)言定議状態(ボードモード)『“春日山城(ヴィスナー・クリェームリ)”』にて」◯
《廿一の言像更新(オーバーリロード)
:廿一様は沈黙しています。お腹が減っているのだと判断します。
:断蔵様は沈黙しています。童貞なのだと判断します。
断蔵:「ちょっと苦情言ってくる。色々な意味で」
廿一:「おう。言ってこいや」

《廿一様の言定議状態(ボードモード)を終了します》



◯「ノギロ・チュアンショウの言解議状態(サイトモード)『“春日山城(ヴィスナー・クリェームリ)・第三階層・格納庫”にて』」◯
《ノギロの言像更新(オーバーリロード)
 ノギロ・チュアンショウはいつものように、ジンゴロウと酒を酌み交わしていた。
 酒の肴となっているのは先ほど届いた詞片(メール)で、
「また姫様が気まぐれ爆発させたようですなあ」
「儂は仕事が無駄にならなきゃそれで構わんよ」
 翼の退化した陸棲系半竜であるジンゴロウは、苦笑の遺伝詞(ライブ)をにじませながら大酒盃(ジョッキ)を傾ける。
 半竜の肺活量なら500mlのウォッカを飲み干すのは一瞬だ。
 ほ、と火を着ければ火竜砲(ファイアブレス)が吐けそうなほどの酒気を吐き出し、
「まあ儂らはともかく、断蔵や廿一は大変じゃろうなあ」
「ダンゾウ君は勿論、ハタカズ君も結構、気遣いする性質ですからねぇ。スルガさんほど姫様に甘くないですし」
「断蔵はな、あの娘の保護者役じゃからな、……うん?」
 と、ジンゴロウは手の酒盃を見て目を細め、
「儂の酒がいつの間にか無くなっておる……」
「さっき一息で飲み干したでしょうに」
 言いつつ、ノギロは道服状の装甲服の各部ハードポイントに吊るした酒瓶の一つを手に取り、
「翁もそろそろ酒量を減らした方がいいかもしれませんなあ」
 指運一つでコルクを抜いてジンゴロウの酒盃に注いだ。それもなみなみと、だ。
「『酒豪』の字名(アーバンネーム)を持つ男が何を弱気なことを」
「アルゲス四神工が一人、『騎工神』ジンゴロウ翁に脳卒中で倒れられても困りますからねえ。うちのギルドの酒保担当は私ですから、私の管理責任になってしまう。そりゃあいけません、とてもいけませんよ」
「老い先短い老竜から数少ない楽しみを奪うつもりかい。老人虐待じゃなあ」
「ははは。翁には元気で長生きしてもらわなくては。――多分、そろそろ動き始めるでしょう? 色々と」
「さぁてな」
「やれやれ、歳を取ると口まで機能劣化していくものですかねえ」
 ノギロは杯を傾けつつ、横手に目を向けた。
《ノギロの言像焦点オーバーズーム
 そこに立っているのは鋼鉄の巨人、重騎(ヘビィバレル)だ。
 肩に騎体称呼である“毘”の一字を彫り込んだその重騎の名は、
「“毘沙門天”。……五菱(ペンタグラムダイヤモンズ)の旗騎として最高の技術を注ぎ込まれ、しかし未だ完成には至らぬ未熟な兵器――、ということになっていますよね」
「事実、その通りじゃよ。……技術は日進月歩であり続けるがゆえに、最高の技術は日々劣化していく。ゆえに――」
「――意思を持ち、常に自己研鑽を行う兵器こそが最高の兵器である」
 それこそが、
「思想騎体。……ですがこの“毘沙門天”にはまだ意思が現れない、と」
「何が悪いんじゃろうなあ。設計的には問題ないと思うんじゃが」
「やはり必要なのですかねぇ……。“天目一個”が」
 ジンゴロウの腰を見やる。
《ノギロの言像焦点オーバーズーム
 作務衣状の装甲服の腰部ハードポイントに、一本の機殻小槌が吊り下げられている。
 あるいは剣のようにも見えるその小槌の銘を“一”という。
「鍛冶神の名を四分割した小槌の一つ。四つ集めれば最高クラスの機殻槌“天目一個”になると言われてますよねぇ」
「本当のところはどうだか知らんよ。“天”や“目”の持ち主と会ったことがあるんじゃが、特に共鳴(ハウリング)も無くて、互いにがっかりしあったものじゃ」
「まあ四つ集めたら何か起こるでしょうよ。“個”はまだ見つかっていないという話ですし」
「――どうだかのう」
 ジンゴロウが酒盃を大きくあおる。顔を隠すように、だ。
 そんな老竜の態度に苦笑を感じつつ、ノギロも酒盃を空けた。
「――私としては何か凄まじく壊滅的で終末的な最終局面で唐突に脈絡無く意思に目覚め、劇的な活躍で格好良く事態を解決してくれるとか、そんなのを期待してるんですがねぇ」
 いやいや、とジンゴロウは否定の手振りをした。そりゃあ無理じゃろう、と続けた上で、
「ぶっちゃけ、――性能的には“毘沙門天”より小太郎嬢ちゃんの“小島(リトルアイランド)”の方が圧倒的に上じゃし」
「ですよねー。『鬼小島』でどうにもならない事態で、“毘沙門天”が大活躍とか、はは、はははは!」
「わははははは!」
「はははははは!」

《ノギロ様の言定議状態(ボードモード)を終了します》