4x.その他のその他

4-1x.昨年の秋季全学合同学園祭の様子
 秋季全学合同祭は年に数回行われる全学合同祭の中でも、最大級の規模を誇る。
 10月31日のハロウィンの仮装行列を前夜祭とし、文化の日を頂点とし公式にも4日間、準備祭や後夜祭を含めれば一週間近い祭りが続く。
 合同会場だけでなく、学園都市各校舎学校部でも同時に学園祭が開催される。
 無論その場所に来るのは学園都市の人間だけではない。
 周囲の圏から多数の客が侵入することも確かなのだ。
 これはそんなちょっとした一幕。


 祭りを迎えた都市全体が喧騒に包まれている。
 祭りとは生き物であり、盛り上がりは脈動として現れる。

 学園都市中央通、通常ならば車の往来があるその場所は無数の人の流れがあった。
 人の流れは無情にも人を押し流し、その動きは更なる流れの一部となる。
 そんな往来の中、期せずして開いた空間に右手に六角棒を握り締めて立ち尽くす男の姿があった。
 耳を隠した赤毛に白いYシャツ姿の少年だ。名を藤守・壱里と言う。
 彼は静岡圏側派遣富士特区守護役補佐という無駄に長い名の役職を持ち、その役割を果たしているはずだったが
 ――壱里・発声技能・発声・発動・成功
「畜生誰がこんなことを」
 今の彼はその役割を果たせていなかった。

 彼が役割を果たせていない発端は本日より9時間ほどさかのぼることになる。



 藤守・壱里が住む朝間神社の朝は余り早くない。
 神主である此花・宗祇は昼間で寝ているのが常であり、残る同居人の二人もまた、夜が遅い分起きるのも遅くなっている。
 ここ二、三日はその同居人のうち一人は筑波に出向している身であり、あと一人もまた山梨に里帰り中だ。
 そして今の時間は9時、この時間に起きているのは自分からメイド役を買って出ているユタカさんか、もしくは遺志の希薄な掃除手伝いの方々、そして自分と 護るべき対象である少女くらいである。
 ちなみに自分と少女以外は既に死んでいる人間だ。今は富士の鼓動と少女の力により、実体化している幽霊である。
 世界的にも異常事態だが富士では常識なのだ、気にしないでいただきたい。

「ねぇねぇ壱里君」
 そんな異常な環境にある神社、すでに終わった朝食のお盆をメイド服姿で下げるユタカさんはさておき、満面の笑みを浮かべて長髪の少女は壱里に話しかけてきた。
 濡れたような黒髪の目立つ巫女服の少女の名は此花・要、齢17歳で富士守護役を勤める少女だ。
 そんな壱里の護るべき少女が笑顔で話しかけてくるのは珍しくない、だがここまで極上な笑顔で話しかけてくる機会が余り無いのも事実
 ――壱里・発声技能・発声・発動・成功
「なんだ?」
 感情の薄い、しかしはっきりとした声で壱里が疑問を投げかけた。
 その投げかけに、壱里の視界に居る少女の口が動いた。
 藤守・壱里にその発声は聞こえない。否、聞こえるはずがない。
 己の詞を失った少年(ロストワーダー、完全に聞こえない、とはそういうことだ。
 ――壱里・読取/心理技能・読唇術・対抗発動・成功
 だが技能の力は、彼の耳を目と思考力で補う。
 要の声が"見える" この力があるからこそ、強者とはいえ護衛者としては致命的障害を持ちながらも守護役補佐を任されることができるのだ。
「うちのお祭ってさ、大分後だよね?」
 そんなこんなで、何の問題も無く見取った台詞はそんな言葉だ。
 一瞬で脳内スケジュールを確認、壱里は無言の頷きを以って肯定する。
「で、ウチのお祭って地味じゃないですか?」
 嫌な予感がしたが口にはしない。
 瞬間、要が横を向いて、ですよねー、と誰かに同意を求めた。
 見ずともなんとなくユタカさんだと理解できる。あの人はそういう人だ、何時もノリノリで同意してくる。
 そしてその後処理を任されるのも大抵壱里なのだ。
「というわけで!」
 気合を入れて、両手を挙げて無駄に元気いっぱいで話しかけてきた。
「参考のために、筑波のお祭行きましょう!!」
「却下だ」

 後に富士神社に住まうメイド、ユタカさん(自称享年17歳)は語る。
『ええ、あれはもうシークタイムゼロセコンドとかそういうレベルじゃありませんでしたね。実にオートマチックといいますか
 即答の理想でしたね、私も見習いたいものですねぇ。ほら、私断れませんし
 ……でも、アレのおかげで壱里くん大苦労。 正に自業自得です。 あ、このレモンのお菓子おいしいですね』

 現在に話を戻せば、両手を天井に向け、笑顔のまま首を捻る要が居る。
「ダメ?」
「ダメだ。そもそも意味がまったく理解できない」
「だだだだだだ、だってお祭行きたいし!」
「自分の役目と立場の重要性を考えろ」
 抑揚の無い声で言うと、少しなみだ目で睨みつけてくる要が居る。
 ――壱里・読取/心理技能・読唇術・対抗発動・失敗
 口が動いたが見切りきれない、だがこちらへの恨み言だろうと判断
「筑波の祭といえば人が集まりすぎる、あんな人ごみでお前を護りきれる自信が無い」
 正直な言葉を吐けば、こちらの目をのぞきこんでくる要
 肩を落として吐息
「………わかった、わかったわよ」
 見切りきれるギリギリの口の動きで言って、要は踵を返す。
 力ない歩み、その両肩が落ちている。可哀想だとは思うが、これも彼女のためだ。
 見送り、視線を横へを変えた。
「ユタカさん、フォローを」
 口を押さえた黒髪のメイド、ユタカを名乗る実体化した幽霊は頷く。
 何かを言っているかもしれないが、彼ではその内容は理解できない、ただ大丈夫だろうと判断し
「行ってきます」
 彼は日課の周辺偵察へと出かけた。