音がする
 草木が揺れ、互いに触れ合う爽やかな音だ。
 舗装されていない道路の両サイドの畑には、ススキのような植物が立っている。
 歌にも歌われる、昔ながらのサトウキビ畑。 長閑な風景で、不満を言いながらもなかなか気に入っていたオバァの家。
 ……ああ、またこの夢か
 夢ってのは本来過去の状況とか聞いた話とかをごちゃまぜにするからこそなんだかいろいろ見ちゃう訳で、普通は痛みなんか無いんだけど この件に関しては別、だってオール事実の無編集記憶だしさぁ。
 そんなワケで今の私には夢の私の痛みが来てる、慣れてても痛いんだよねコレってさ。
 さらに言うなら、編集が無いから昔の私と今の私の視線は完全にリンク。過去に見た事実こそが今見る夢ってね。
 この場面だと確か……、そうそう、最初に見るのは自分のズタズタになった左手。この辺は血みどろで曖昧なのか、怪我の詳細は分からない。
 左手を見た視界は、右半分が欠けていた。ズキズキと右目がある辺りと脳が痛む。
 ……当時の私には、自分の右目が潰れてるなんて理解できなかったっけ。
 自分の手を見て、欠けた視界が霞む。 そりゃ子供じゃなくてもこの状況は泣きたくなるよ。
 そんな状況で見た前方にはこちらを振り返って笑うオバァの顔があった。ウチナーのオバァらしい元気な笑顔、手には古いライフルが握られている。
 そのオバァの背中越しには"何か"が居るのが分かる。その何かが今の私にはどうしても思い出せない。 だから夢の中でのソイツの姿は恐ろしく曖昧。
「……りだよ……、…バァ……!」
 声になってないぞ、昔の私。まぁ余裕無いから仕方ないんだけど、それ以上に何が起こるのかをなんとなく理解してたのかもしれない。
 振り返っていたオバァの顔が"ソイツ"に向けられ、ライフルのボルトが引かれたあたりから視界が暗くなっていく。
 出血多量で意識が落ちていったのだ。故に私はこのあと"ソイツ"がどうなったのかを知らない。
 けどオバァがどうなったのかだけは、意識を取り戻した数時間後に分かった。
 あのやさしくて元気だった私のオバァは―――




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 屋比久・奈央のターンを終了し、学園都市・TUKUBAへとターンを移行します



 
 学園都市・TUKUBA"高等部生徒用女子寮J棟・つつじ” 402号室
 そのベッドルームに、Tシャツにジャージ姿の女子が、酷い寝相で寝ている。
 部屋には携帯電話の音が鳴り響いていた。


 その警報のように鳴り響く携帯電話に、すぐに反応ものは居ない。
 このTUKUBAの寮は、一部の特例を除けば一つの部屋につき二人の生徒があてがわれるものだ。
 それはここの住人で現在就寝中の屋比久・奈央、風水師としてはナオという字名(アーバンネーム)を持つ少女の部屋も例外ではない。
 だが、もう一人の住人が携帯電話に出ることは無かった。 無理も無い、この部屋には現在ナオしか居ないのだ。
 外はもう暗くなっているが、神形具作りの課題に追われていると言っていた彼女の同居人は、まだ帰ってくることはないだろう。
「………分かってはいたのよ、分かっては…」
 酷い寝相で寝ていたナオが瞳を開く、左目は生身の黒だが、右目の反射光は人口の青、義眼だ。
 ――ナオ・義体技能・発動・義眼"AXT"起動・失敗
 ナオの視界は夢の中と同じく欠けたまま。
「あんな夢見るから、だろうなぁ」
 寝たままの姿勢で器用に肩を落とし、ため息をつきながら再度義眼の起動をする。
 ――ナオ・義体技能・発動・義眼"AXT-09"起動・成功
  ――ナオ・義体技能・発動・義手"RF-D7"起動・成功
 ついで、というわけではないが連続してナオが持つもう一つの儀体、左の義手を同時に起動した。
 視界は正常に天井を見ていて、握ればしっかりと両手の感覚が返ってくる。
 よし、と気合を入れて上体を起こし
「……なーまケータイ鳴てぃるよ…」
 肩まで伸ばした黒髪を手櫛で整え、溜息を吐きながら延々と鳴り続ける携帯電話に手を伸ばした。
 名前を見れば、そこには彼女が主に授業を受けている教師の名前だ。
 両手でそれを握り、眼を閉じて深呼吸。 よし、と気合を入れなおして携帯を開いて耳に当てる。
「はいもしもし、屋比久ですけど。 先にいっておきますが出なかったのは寝てたからであって決して先生の電話に出るのが嫌だったわけではありません、本当です!」
「相変わらず電話開くと言い訳するね、この子は」
 性格かねぇ、とややあきれ気味に女性の教員が電話口に応えた。その口調には覇気も怒りも感じ取れなかった。
 ――ナオ・風水/聴覚技能・重複発動・感情遺伝詞感知・失敗!
 遺伝詞を聴いても電話の意図が分からない。故に直接口で聞いた
「どうかなさったですか先生? わざわざ今日の昼まで課題をやらせてた生徒に何か用でも」
「そう怒るな。大体お前が六万くらいしか……、っとその話じゃあないんだ、今日は」
 小さい間があった、どうやら煙草を吸っているらしい。
「お前、ここ30分で添えつけのテレビはつけたか」
「寝てたって言ってるでしょう、しかもこの日はこの時間にTVつけませんよ」
「……なんか変な番組あったっけ?」
「いえ、ほらアニメです、あの沖縄が舞台のヤツ。 いえナイチャーが作ってるから別に良いんですけど、どうしても私はやんばるの発音が許せなくて、ヤンバルじゃなくてむしろやんばる!」
「―――落ち着け、とりあえずテレビをつけろ、7チャンネルの構内ニュースだ」
「………はい」
 少し不満げに応えながら、テレビに近寄り手動で電源を入れる。そのままチャンネルを指示されたとおりに変え
「コレって……っ!」
   そこに現れた風景に絶句した。





 工学部、新実験棟は瓦礫の山と化している。
 内部から爆発した建物は構造物を周囲に撒き散らし、内部構造体を外部に晒している。
 道路側の一面は壁が殆ど崩落している。
 その光景を背後に置き、放送部のニュースキャスターが現在の状況を淡々と語っている。



「百聞は一見にしかず、あとは説明しなくても分かるな」
「分かってるから着替えてるんです」
 首で携帯電話をはさみながら、耐風水五行繊維(A T B F)で出来たコートに袖を通す。下の対衝撃反射素材(A S R A)で構成されたインナーも合わせて、風水科の作業着は完成する。
 下に穿くのはスカートでもズボンでもいいのだが、彼女が愛用しているのは後者だ。
「でも私、普通の風水では六万しかいけませんよ。だから医務の常駐に回らないんじゃないですか私は」
「誰が普通の風水でやれといった屋比久・奈央、お前には二十七万詞階を風水するやり方があるだろう?
 ……細かく言えばこの状況には向いていないんだが、な」
「…猫の手の借りたいってワケですか、分かりました」
 嘆息し、机から自分専用の神形具を取り出しコートの懐に押し込んだ。続いて単三蓄伝池用のホルダーをコートの内ポケットにねじ込む
 これで準備は万端だ。
「準備完了、これからそっちに向かいます。近くの医務施設で良いですよね?」
「問題ない、そこからなら5分もかからないだろうな。ちょうどお前向きの患者が一人居る、急げ」
「了解。
 あ、切る前に一つ聞きたいことが…、五行科のゴンって子は?」
「妹が担当してる傍若無人な狐っ子か。 彼女なら此処には来ていないよ、多分戦闘にも巻き込まれていないはずだ」
 五行師の戦闘は派手だからな、という声を聞きつつ、ナオは安堵の息を吐く
「わかりました、それじゃあ現地で」
 電源を押して通話をオフにし、開いていた電話を閉じて胸ポケットにほうり込んだ。
 戸締りは既に確認している、後は玄関をあけて出て行くだけだ。
 靴を履き、立ち上がったところで横に視線を向ける。 そこにある靴箱の上には、写真たてがある
 中に入っているのは当然写真だ。枝が写りこんでいることから樹の上から取られたと思われるその写真に写るのは一人の人間だ。
 短めに切りそろえられた茶髪に低い身長、そして限りなく中性的な顔はどこかナオに似ている。
「それじゃあネーニー、行ってきます!」
 盗撮と思わしきその写真に言葉を掻け、ナオはドアノブを回した。
 ドアが開く。




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 階段を速攻で降りて、駐輪場にある愛用の自転車のカギを開ける。
 沖縄時代からの愛機で、那覇にある数々の坂を制してきた相棒。 今も買った当時と同じくらいの動きは出来る。
 ……まぁ、たまに壊しても風水で直すからなんだけどね。
 とにかくそれにまたがり、ペダルと蹴り飛ばす。工学部の新実験棟までは結構距離があるけど、私とこの子ならなんてことは無い距離だ。
 この自転車の扱いなら誰にも負けない自身がある、この速さは数少ない私の自慢。
「さー、行こうか!」
 気合を入れなおして加速、夜の闇と冷たい風の遺伝詞をライトで切り裂いて、一気に新実験棟への道を走っていく。





 工学部、新実験棟はだった場所には既に人だかりが出来ていた。
 見物目的の学生を始め、衛生部の風水五行師や騎・人形・神器各種工学科の生徒。
 学内警察機構の構成員まで様々な人々がいる。
 瓦礫の撤去作業は既に大分進行しているようだ。


 あたりに漂うのは黒と赤が混じった、粘度のあるもやもやとした遺伝詞。
 ……見慣れないけど、自分の遺伝詞に刻まれた嫌な不協和音。
「まぶやー……」
 ――ナオ・心理技能・発動・遺伝詞酔い抑制・成功!
 胸を押さえることと技能で湧いて出た吐き気を抑圧、これは戦後沖縄で産まれたモノに刻まれた性質。
 爆発した後っていうのはもはや圏全体のトラウマになってるわけだ、まったく情けない。
「おいナオ、大丈夫か?」
 声をかけて来るのは同級生の男の子で…えっと名前は……
 ――ナオ・心理技能・発動・人名照合・失敗!
「大丈夫よー、ちょっと徹夜明けだから頭痛いだけ」
 名前が思い出せないことにちょっと謝罪の意を内燃詞して、ありがたい言葉に嘘を交えて答える。
「大丈夫ならいいんだが……一体何しに来たんだ? 確かお前医療系じゃなかっただろ」
「先生に呼ばれたのよ、緊急だから手伝えって。 重傷患者が居る場所なら、動物を仲介出来ない風水でも役にたつからね」
 そうか、と私の風水の欠点を知る同級生は納得。
「相変わらず風水で動物を作り出せないんだな。普通でも裏技で何故か作り出せない、だったっけ?」
「そうよ、子供のときからずっとそう。 ここに来たら変るかもって思って、普通を習いなおしてるけど…まだ治らないなー」
「何時か治るんじゃねぇか? …しかし先生に呼ばれたってことは裏技の使用許可が下りたのか」
「……ま、ね。ここの撤去や修復はそっちで手伝うから、作業を思いっきり手伝えると思う。ところで先生は?」
 問えば彼は、先生ならあっちだと指でテントを示した。
 聞けば十分だ、吐き気も十分に取れた体でテントへと歩き出す。
「撤去の風水期待してるぜ、拳銃使い(ガンスリンガー)
 そんな字名(アーバンネーム)を背中に受け、私はテントの入り口をくぐった。



 爆破現場付近の緊急用医療テント。
 その中には未だに治療を受けている学生や教員たちがベッドに横になっていた。
 医療系の風水師や技術者がばたばたと動いている。

 ……うわぁ
 最悪の想像よりはまだマシだけど、結構忙しい状態だ。雅式(オーバー)楽府式(ワインド)首聯(ラップ)があちこちで鳴り響いている。
 中身より見た目は広く、奥は白い幕がかかっていて分からないけどまだスペースがあるようだ。
 多分だけど、構内報奏の効果か何かでテントの容量を増やしているらしい。改めて考えるとすごい特性だよねコレ。
「あー、来た来た。こっちだこっち」
 幕をカーテンのようにめくり、こちらに手招きするのは我らが風水科の教師にして電話をしてきた張本人。
 180はある身長に、腰まである超ストレートの黒髪がやたらと目立つ白衣の女性。ややキツ目の美人だ。
 "先生"、というややこしいことこの上ない字名を持つ彼女にせかされ、私は小走り。奥の空間へと足を踏み入れる。


「で、お前向きの患者ってのがあっちだ」
 奥の部屋に入ると、ソコは無数のカーテンに仕切られた簡易個室郡だった。
 比較的重傷で、病院に運びきれない分を収容しているらしい。
 カーテンが閉じてるのは本気でヤバイところなんだろうなぁ、などと思いつつ
 あっち、と示された方向を見れば包帯で巻かれた人がいる、確か大学の重騎師で名前は……
  ――ナオ・心理技能・発動・人名照合・成功!
 今度は成功、前に広報でインタビューを受けてた内藤先輩だ。確か荒なんとかっていう新型のテストパイロットさんだっけ?
「思ったより重傷でな、わざわざ広めにスペースを取ったんだ」
 そうニヤつきながら言う先生は、視線を重傷患者に向け
詞変(ワードアクセル)、六万三千詞階の遺伝詞達よ」
 叫ぶ、というよりは徹る声で患者の傷を風水していく。遺伝詞操作(アレンジ)の速度も半端じゃなく速い。
 この辺は流石だと感嘆するしかないよね、年齢は30行ってないくらいなのに、速度ならウチの親父すらも凌駕してる。
 ……だからこそだろうなぁ、無茶な課題出すけど私がついていってるのは。
「遠慮はいらんぞ、全力でやれ」
 私の風水を何だと思っているのか、そんなことをこっちを見ずに言い放ってまた次の風水へと移る。
 はいはい、といつも通りに快く二度返事。
 そして私は内藤先輩のベッドへとたどり着いた。


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「どうも、内藤さん。大丈夫ですかー?」
 そうやさしく聞いて、同時に彼の傷の具合を見る。
 ――ナオ・医療/風水技能・重複発動・傷症感知・成功!
 包帯に包まれた体から沸き立つのは怒りの赤と哀愁の紫、そして疲労の黄色だ。それにまぎれるようにして相手の症状が見える。
 全身のあちこちに火傷があるがほとんどが治りかけていた、よほど応急処置が速かったのだろう。
 しかしそれ以外は余り宜しくない。全身の打ち身もまだ残っているし、何より目を凝らせばロープか何かで縛られていた後もある。
 ……趣味、かな?
 ナオはそんな失礼な感想を抱き
「大丈夫に見えるのか、コレが」
 不満げに言う内藤の声を聞きながら、右膝から下をざっと見る。
「正直な話、見えませんね。ていうかこれって折れてるどころか砕けてますよ?」
「そんな説明はさっき先生に聞いたよ。だが治してもらえなかった、もっと相応しいヤツがくるっていわれたきりなんだが……、まさか君か?」
 刺すほどではないにしろ、視線と言葉には明らかな疑いの遺伝詞が含まれている。
 その様子に思わず吐息
「はーもー、そんな露骨に嫌がらないでくださいよ、私だって急に呼ばれたんですからっ」
「なんで鱧の話かは知らんが、嫌がるくらいなら他の風水師と代われ! それにお前まだ高等部、しかも二年だろ!?」
「嫌です」
 即答で拒絶、目線をそらして吐息する。
「………単位、結構危ないんですよ」
「……それじゃあしょうがないか、ってそんなヤツに重傷患者を風水させるか!?」
「先生が普通に見えますか?」
 ぐ、と黙る内藤。科は違えど"先生"の評判は通っているらしい。
「まじめにやってるんですよ?
 自慢じゃないけど遅刻欠席は今のところ皆無。筆記が多少悪いですけど、その分は実技でカバー
 遺伝子操作で動物は作り出せませんが、ソコもカバー可能。だのに何故か単位が足りないという先生。
 ……まぁ、風水科の生徒の9割が同じ問題に悩まされてるんですけど」
「ビックリさせられることだな、二年生」
「ええ、さぁ仰向けになってください内藤さん」
 なんで仰向けなんだ? という呟きは喧騒に流され、彼はベッドの上で仰向けになった。
 その様子を確認し、ナオは懐に自分の右手を差し入れて自分の愛用する道具を取り出しす。


「――――待った」
 その道具を見たとたん、包帯と符で全身を巻かれた内藤が片手を挙げる、こちらを静止するような手だ。
 技能を使わずとも恐れとおびえの遺伝詞が見える。 そして、息を呑むような思いつめた表情を浮かべていた。
 ――ナオ・心理/視覚/風水技能・重複発動・表情理解・失敗
「こんな酷い怪我をして混乱してるのは分かります、けど落ち着いてください。 遺伝詞が乱れますよ?」
「違ぇぇぇぇぇぇ!? ていうか何だソレは!? まさか介錯か! 死ぬのか俺!!」
「………先生、あとで先輩の精神的なケアを」
 あいよ、と別の患者を風水する先生の軽い返事を聞けば、頷いて全身に力を込める。
 手に持ったのは拳銃、中折れ式の単発銃だ。 それを折り曲げれば見えるのは薬室。
そこにポケットから引き抜いた、単三蓄伝池と同じ大きさの筒を差込み、ハンマーを上げることでセット。
「私の手中にある流体よ、私の声を乗せて飛び、八万詞階の血肉に願いを伝えて」
――ナオ・風水技能・発動・風水砲弾形成・成功!
 淡い光を持った神形具の銃口を見て、納得の笑みを浮かべた。 あとは引き金を引くだけだ。
「じゃあ、ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してくださいねー」
 緩い、お世辞にも頭がいいとは言う印象は笑みを浮かべ、その拳銃の銃口を一番怪我の酷い場所、右ひざへと向ける。
 銃口と傷口はギリギリのクリアランス、触れるか触れないかの距離。
「ちょっと待て、お前は傷を治しに来たんだよな?」
「ええ、そうですよ。 そのために風水科の私が呼ばれたんですから。 ……しかも徹夜明けにです」
「不機嫌そうに言うな、俺だって気分悪いんだ……。 そんなことより!」
 震える手で指差すのは自らの膝に突きつけられた拳銃だ。 風水師であるという彼女の言葉を信じるならばそれは神形具で無ければならない。
だがしかし、その神形具の形は少なくとも内藤の記憶には無い拳銃形だ。
「俺だって詳しいわけじゃない、だが少なくとも俺の知ってる神形具に拳銃型なんてのは……」
「はい、それでは自分の足をちゃんとイメージっ」
「聞けぇぇぇ!?」
 制止などなかったかのように、彼女は遠慮なく引き金を引いた
 響く銃声は火薬の炸裂音ではない。 リ、という音が長く響く鈴のような音
 そして、次の瞬間にはガラスが砕け散るような音が響いた



 医療風水用のテントスペース
 その中をガラス片のような赤と白の、小指ほどの結晶が枯葉のように舞っている。


 ――内藤・心理/視覚技能・重複発動・状況把握・成功!
  ――内藤・心理/視覚技能・重複発動・現象理解・失敗!
「な……!?」
 何が起きているのかは分かる、だがどうしてそうなっているかが理解できない。
 ただ現実として、自分の膝を中心に右足が根元から消失していることは確かだった。
「とー、自分の無事な体をイメージしてくださいねぇ、思い出すだけで結構ですから…」
 内藤にかけられた言葉は足を吹き飛ばした下手人であろう風水師からだ。 その声は優しく、言い聞かせるようで
まるで子供をあやすようにも聞こえる。
 ああ、と生返事、安心させるような言葉に心を落ち着け、自分の無事な右足を想像する。
 瞬間、舞っていた赤と白の結晶が右足のあった場所に集中していく。
 パズルが組み合うように出来ていくのは包帯を巻かれた右足。まるで逆回しのビデオを見ているような風景だ。
 足の完成までは完了まで2秒とかからない。
「治ってる……のか?」
 ためしに動かしてみるが痛みは無い、むしろいつもより調子が良いくらいで。
 呆然とする内藤の右ひざを、手袋をした小さな手が叩く。痛みは無いため表情を変える必要は無い。
 その状況を見て、やはり子供をあやすようにナオは微笑んで立ち上がる。
「これで大丈夫のはずです。 それじゃあ先生、私は他を手伝ってきますね」
「おう、私に余計な後始末をさせ無い程度にがんばれ」
 了解です、と敬礼し、軽い足音を立ててナオは別の自分が必要とされる場所へと向かっていった。

 残されるのはベッドに寝転んだ大柄の青年だ。
「一体何なんだよ、コレは……」
「まぁ、あまり見る機会は無い風水のやり方だな」
 内藤の問いに答えるのは、別の人間を治療していた風水科の教師。 先ほどまでナオと会話していた白衣の女性だ
 問いへの答えを勝手に続ける。
「契約でもなく問いかけでもない、無垢の流体に己の遺伝詞と望む結果を乗せて発射して、ただ願うことによって風水する。欧州とも中国とも繋がりがあり、互いの流れを飲み込み己のものとした風水機構」
 タバコを咥えて火をつけ、それを一息吸うことで間を置く
沖縄式風水(レキオスチューン)、その宗家である屋比久家の第二後継者候補があの女だ。 第一候補の兄だか姉だかは沖縄の総長代理補佐だったかな」
 なるほど、と納得して内藤はベッドから立ち上がろうとする。記憶と時間の計算が確かならば、後輩の中林・英彦は既に荒帝と交戦を始めているだろう。
 こんな体でもアドバイスくらいは、そう思いながら足に力を
 ――内藤・脚術技能・発動・立ち上がり・失敗
「なに!?」
 脚に、というより下半身に力が入らない
 先ほどの風水が失敗したのかとも一瞬思ったが
「………何をしてますか、先生」
 左の太ももに刺さったナイフ型の神形具、先ほどまでは無かった異物だ。その柄を握るのは白衣の教師。
「何って、精神的ケアを生徒に頼まれたんだ。 やるのは当たり前だろう? 今のお前は焦りの遺伝詞が丸見えだ」
 教師の言葉に抗議しようとする内藤の思考を、教師の言葉が断ち切った
「既に中林・英彦の乗った荒人・改は荒帝と交戦終了、結果は――――」



[登場人物]
名前 屋比久・奈央
都市 学園都市・TUKUBA(出身は異刻都市(マイペースシティ)・NAHA)
字名(アーバンネーム) ナオ、拳銃使い(ガンスリンガー)
肩書き 風水科専攻学生
戦種(スタイル) 風水師
舞闘(ダンス) 小林流銃砲式
風水限界詞階 通常の方式なら六万詞階、沖縄式なら二十七万詞階まで
使用武器 拳銃型神形具
性格 呑気で鈍感、忘れっぽいが忘れたことを気にしない
詳細 教師志望、普通の風水を学びに筑波に来ている。外見は細めで人並みの身長。肩まで伸ばした黒髪、右の蒼い義眼と手袋に包まれた義手が目立つ。あと巨乳よりの乳
沖縄式風水(レキオスチューン)の使い手だが、自分の中で許可が出ない限りは使うことはしないらしい
何故か風水で動物を作り出すことが出来ない、昔からの性質
シス+ブラコン、ネーニー大好き


字名(アーバンネーム) 先生(ティーチャー)
都市 学園都市・TUKUBA
肩書き 風水科専攻教員
戦種(スタイル) 風水師
舞闘(ダンス) 不明
風水限界詞階 不明
使用武器 ナイフ型神形具
性格 笑うクール系、割と正体不明
詳細 先生、というややこしいことこの上ない字名を持つ風水師、180を超える長身に均整の取れたボディ。何故か常に白衣
TUKUBAに無数にいる有名教師の一人、天才肌らしく生徒に意味不明な訓練をすることで有名
ただ成果は出ているらしく、彼女の講義を受講した風水師は並以上の力を持つものが多い
見込みのある人ほどいじめるタイプらしい
外見、性格ともどもそっくりな双子の妹がいるが、二人一緒にいるところを見たことが無いと言う情報から同一人物説まで出ている
ちなみに妹の字名は"講師(インストラクター)"で、五行科の教官を務めている