続きから




 つくばエクスプレス、新工業学園都市にある地下路線
 その淡い明かりに照らされた通路には大小二人分の影がある。
 一人は大剣を持った長身、一人は身長よりも長い槍を肩に抱えた小柄な人影だ。



「でんのぉ…」
 槍を抱えていた方の人影が、耳に当てていた携帯を折り畳む。
 小さい人影は10代の少女だ。 身長の割りに長く、量が多い金髪をポニーテールにし、対衝撃反射素材(A S R A)で構成された袖なしのチャイナ服、その上に衛生課の防寒ジャケットを羽織っている。
 ゴン、という女性らしからぬ字名(アーバンネーム)を持つ五行師(バスター)だ。
 頭につけたカチューシャの狐耳が風でかすかに揺れた。
「これで3度目じゃ、こりゃまた忘れたかのぉ……?」
 独特な口調で言って、携帯の画面をメール製作に切り替える。
「き・よ・う・は・お・そ・く・な・り・ま・す、と」
 短い文面のメールを同居人に送信し、携帯を閉じて太もものホルダーへと携帯を押し込んだ。
 着ているチャイナ服のスリットはそれが可能なほど深い。
「…人の服装に余りモノをいう立場ではないが、その露出狂のような格好は趣味か?」
 大剣を持った青年が、剣を持った手の指で眼鏡を押し上げる。
 180cmを超える体躯と短く切られた黒髪、そして戦闘用のジャージというスポーティなイメージに反して、彼の視線は知性を感じさせる。
 年齢は二十歳を過ぎたばかりといったところか。
「半分は趣味じゃんども、色仕掛けちゅう視点からみりゃ実益大きいで? ……ほれほれラスカル兄ぃ、ワシの美脚見て青いりびどぉを爆発させるのも手じゃよぉ? うりうり」
 狐のような目で挑発的な笑みを浮かべながら、チャイナのスリットに指を入れてはためかせる。 ちらつくのは美脚で十分通じる白い足だ。
 ――ゴン・心理/脚術技能・重複発動・誘惑・失敗
 だがラスカルと呼ばれた、同じく五行師と思われる青年は冷静なままだ。  技能を使った抵抗すらもしていない。
「残念ながら俺のストライクゾーンは30代以上でな、お前のような16の子供に興奮するタイプではない」
「……うわぁ、ラスカル兄ぃがババァ好みとは。元々低い評価がさらに下がったのぉ」
「相変わらず失礼なヤツだな。だが心配するな、俺もお前には性的興味が無い」
「しもんきん風に言わしたぁ、年増園の住人じゃろ? じゃったらワシのぴちぴちお肌に興味が無くてもしょうがないなぁ。たるんだ方が好きやなんてそっちのがよっぽど変態じゃぜ?」
 肩に抱えた槍の穂先を揺らしつつ、あきれたような笑みを浮かべるゴン。
 対するラスカルも苦笑をもらした。
「年増園で結構だ。 …しかしお前に興味が湧かないのは、肌が原因ではなくむしろ、その貧しい――」
 ――ゴン・槍術/体術技能・重複発動・なぎ払い・成功!
  ――ラスカル・回避技能・対抗発動・回避・成功!
 風を切る音が響き、ゴンの槍がラスカルの眼前を切り裂いていく。
 2mにも及ぶ長さの槍、その先端には50cmほどの鈍器じみた、碌な装飾も無い穂先があった。
 動作こそ槍でのなぎ払いだが、この太さでは斬ると言うよりはむしろ殴りつけるに近い感覚で攻撃する。
 そんな得物を細身の、悪く言えば限りなく胸部のふくらみが無いに等しい少女が振るっている。
「胸が貧しいと申したか」
 槍を構えなおし、人狐の少女が薄く笑う。あたりに漂うのは赤黒い憤怒の遺伝詞(ライブ)
「待てゴン! 俺は味方だぞ、こんなところで争いを起こしてどうする!?」
「――――否定せんの?」
 ――ゴン・心理技能・発動・威圧・成功!
  ――ラスカル・心理技能・対抗発動・感情抑制・失敗!
「おおおお、落ち着け! それは限りなく誤解で俺は胸のことは言っていない!
 貧しいのは年齢だ!」
 気は済んだか、と一歩引きながら問うラスカルに、数秒の沈黙を置いて槍を下げるゴン。
 その姿に気を取り直し
「……それに今は攻め込まれてる最中だ。こんなところで争っていてもしょうがないだろうが」
「…じゃけんども、次貧しい言うたら容赦なく五行(バスト)じゃぜ?」
 不満げな半目で見るゴンの姿に気を取り直し、ラスカルの現状説明は続く。
「研究学園都市駅を敵戦力が制圧して30分、自治委員会・衛生課(クリアード)が五行科の鋳造専攻まで引き連れて物理的に駅の入り口と線路を封鎖した。 ちなみに避難は迅速に行われているぞ。
 これで研究学園都市駅に存在する敵戦力は足止めを余儀なくされる、だが」
「わざわざ足止めを正面から相手しない可能性もある、じゃろ? 筑波の地下構造は複雑で、意外な場所につながってる可能性もある」
 槍の柄尻で通路を叩く、響音
「たとえばこの通路、研究駅から直通の予定があったらしいしの」
「その予定は工業棟まで路線が伸びることで廃案になったはずだが、何せここは筑波の地下。
 知らないうちにつながっていることもありうると言うわけだ」
 困ったものだ、と吐息するラスカル
「……繋がってるかも判らん通路の護衛か、良うけ考えたらワシらアホみたいじゃの」
「仕方が無かろう、敵がこの通路を通ってこちらに来る可能性も無いとは言い切れまい」
「じゃけんども、新実験棟が吹っ飛んで新型パクったばっかりじゃろ? そがなんじゃー(そうだったら)すぐには動かん思うで」
「…肯定しきれない考えだな。 現状で敵戦力が行ったのは荒帝強奪だけ、しかもその奪還には研究駅の戦力は参加していないと来ている。
 陽動の可能性も高いが…、まぁ十中八九別働だろう。 何を考えているかまでははわからんが、おとなしくはしていまい。
 終点・つくば駅に向かった連中に合流する予定かも知れんな」
 その言葉に含まれるのは警戒と促しの遺伝詞。
「……それは、まぁ分かる」
 納得がいったのか、肩に槍を担ぎなおす。
 思考をめぐらせるのは課題と今夜の夕食のことだ。
 神形具製作は基礎過程を選択したが、この加減が意外に難しく材料を消失させてばかりでいる。
 中学二年でこの学校に入ってから始めた五行だが、意外に才能があったらしく、たった3年の修練で12万詞階を破壊するほどの力を手に入れた彼女だが、こと製作に関しての微調整は効かない。
 ……根が大雑把じゃしのぉ。
 まだ終わりそうにない課題を思い出し吐息、そして今日の献立に思いのウェイトを置く。
 そろそろ買出しの頃合だが、今日はもう遅いしセールの日ではない。
 ……うどん、まだあったっけ?
 ――ゴン・心理技能・発動・思い出し・成功
 技能を使ってまで記憶を探れば、おのずと夕食の、いや時間的には夜食の献立は想像内で完成する。
 きつねうどんだけでは寂しい気もするが、昼の残りは同居人であるナオの性格上残っていないだろう。
 二年も付き合っていればそんなことまでわかってしまう、そしてソレを彼女たちはけっこう気に入っていた。
 そんな同居する友人のことを想像するうち、わずかに眉をひそめるゴン。
 ……この騒動に巻き込まれてないとええんじゃけど
 また吐息を地面に落とし、耳に入った着信音で視線をラスカルに向ける。
 視線を向けられたラスカルは、携帯をあけてメールに目を通す。
 ゴンに向けるのは顔と、鋭さが混じった緊の遺伝詞。
「動体反応が三つ、この通路をこっちに向かってくる。 詳細は不明だが、(バレル)の大きさではないそうだ。 接触まであと―――」
「――5秒じゃの、音で分かる」
 ―ゴン・聴覚技能・発動・足音感知・超成功!
  ―ラスカル・聴覚技能・発動・足音感知・成功!
 ゴンが槍をまわして構え、数瞬遅れてラスカルが剣を構える。 互いにすぐに疾駆できる態勢だ。
「……二人は人間、あとの一人は……機械?」
 人狐であるゴンの聴力が足音の詳細を探知。残り4秒。
「自動人形であるならば、俺が確実に相手出来るな。 後の二人は?」
 既に技能を使わずとも足音が聞こえる。あと3秒。
「聞かにゃあ分からんで? …けど、タッパは並じゃぜ」
 聴覚に集中するために閉じていた目を開ける。2秒
「ならば学則法に従い連中に名乗ってもらおうか、こちらも名乗れよ」
「わかっとぉ。TUKUBAは学園都市であるが故に、学則法を厳守する。防衛においても同じじゃろ?」
 1秒。
「そのためのツーマンセルだ、―――来るぞ!」


 戦闘用の改造制服を纏った二人の少年と甲冑にも見える戦闘用の自動人形が二人の目前に現れる
 前を走る背の高い少年は量産品の剣を持ち、遅れて走る背の低い少年は神術式のライフルを持っていた
 戦闘用の自動人形も同じく神術式の大型ライフルを持っている



 淡い光の中、4人と一体の戦力が対峙する。
 二人の五行師が構えるのは、己の得意とする武装を模した神形具、その二人の服装に統一感は無い。
 そして対する二人と一体のうち、一体である自動人形は戦前まで存在していたとされる、甲冑を纏った戦闘用に似ているが
 幾つかの部分が現在使われているパーツで構成されている。 おそらくはレプリカだろう。
 残り二人の格好は、戦闘用の改造がされた男子用学生服・通称学ランを纏い、目深にかぶった帽子で目のあたりをうかがい知ることは出来ない。
 二人の五行師とは違う、統一感の一語が相応しい格好。
「……あぁ?」
 その統一感、そして奇妙な違和感にゴンは槍を構えたまま眉をひそめる。
 敵である二人の格好はまったく一緒、身長以外はまるでコピーのように何から何までまったく同じだった。
 そして奇妙な違和感の正体は
 ―ゴン・視覚技能・発動・詳細確認・失敗
  ―ゴン・視覚技能・発動・個別詳細認識・失敗
 「上手く見えんのぉ、つうか……」
 呟き、構えた穂先が迷う、まるで相手に切っ先を合わせなおすような動きだ。
 ふむ、とラスカルは納得したように頷き、大剣を振り上げる。
 ――ラスカル・心理技能・発動・威圧・成功!
「では名乗ってもらおうか、我らの敵よ」
 険の表情で睨み、しかし声は冷静に問いかける。
 返答は武器を構える二人の動きだ、その表情をうかがい知ることは出来ない。
 その様子を見て、構えを説かずにラスカルが続ける。
「……名乗らずともわかるがな。
 その普通ならば理解しがたい迷彩は……WOLTとかいう学生組織だろう?」
 息を呑む音、しかし感情の遺伝詞は未だに見えずらいまま。
「……その隠れている遺伝詞が何よりの証拠だ、匿名性という因子を持つが故に製作できた迷彩
 だが我らは五行師だ。 お前らから遺伝詞が発せられずとも、周囲の遺伝詞で迷彩を看破できる」
  ――ラスカル・心理技能・発動・威圧・成功!
 二度目の威圧を成功(ヒット)、たじろぐ二人を見ながら大剣を持つ両手を絞り込んだ。
「案ずるな、高校生を大人である大学生が攻撃することは出来ん。 故にお前ら二人の相手は後ろのチビ娘だ」
「誰がチビじゃあ!」
「貧しくは無い」
「ならよし!」
「いいのかよ!?」
 強く頷き納得するゴンに匿名の二人が思わずツッコむ。
 動作はほぼ同時、右手を前に差し出すモーションまで一緒だ、良く見えないが。
 ……芸風かのぉ?
 疑問を抱くと同時に、後ろの自動人形が構えた。 痺れを切らして攻撃してくるつもりらしい。
 その姿を見てラスカルが口角を上げ、そのまま名乗る。
「自治委員会・衛生課特戦部五行隊副隊長、字名はラスカル、舞闘(ダンス)は示現式
 位階(クラス)は大学部上級」
「……同じく、自治委員会・衛生課特戦部五行隊所属、……期待の新人ゴン様、貴様らの敵じゃ」
 二人の名乗りに、侵入者達が武器を構える。こちらの名乗りは無い
「……約束どおりの2対1じゃけど、まぁ大丈夫か」
「予定通りだろう? 自動人形と連中を分断する。 ……しかしWOLTの手のもので匿名のまま闘うと言うことは……」
「……名乗らんちうことは、アレじゃろうしなぁ」
 ――ラスカル・内臓技能・発動・深呼吸・成功!
  ――ラスカル・腕術/遺伝詞技能・重複発動・五行充填・成功!
「やーい、下っ端ぁ!」
「下っ端とかいうなぁ!」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  ――ラスカル・腕術/遺伝詞技能・重複発動・五行砲撃・成功!!
 叫びと共に行師(ホーナー)にしか認識できない白銀の閃光が通路を両断する
 それが、戦闘開始の合図になった


 破裂の傷跡が残り、粉塵が舞う通路を一人の少女が駆けている。
 相対する背の高い少年は迎撃のため剣を振るい、背の低い少年は後方でライフルを構え、しかし撃つ事は無い



 粉塵を巻き上げるようにして、剣を振り上げた少年に低空で接近する。
 突きではなく、真横に振りぬくための構え。それは本来突進には向いていない態勢だが
  ――ゴン・体術技能・発動・疾走安定・超成功!
 崩れかけるバランスを、人狐(ワーフォックス)の身体能力と技能で補正、一気に距離をつめた。
「五行はせんから、大人しく殴られぇや!」
「無茶苦茶を……っ!」
 対する少年が振り上げた剣を垂直に振り下ろす、迎撃の一太刀
 だがそこには技能は伴っておらず
「だだ甘じゃあ!」
  ――ゴン・槍術/体術技能・重複発動・斬撃防御・成功!
 急ブレーキで慣性を殺しながら、槍の柄で斬撃を受け止める。響音
「下っ端は技能も使えんのかぁ? ショボイのぉWOLT!」
 挑発の言葉への反論を意識下で無視し、刃と柄の接点を中心にして右方向にステップ。
 背の高い少年の左に回りながら、槍を真横から穂先を下においた垂直へと変える。
「せぁ……!」
  ――ゴン・槍術/脚術技能・重複発動・逆風斬撃・成功!
 下に回った穂先を蹴り飛ばすことで加速のベクトルを与え、そのベクトルを両手で制御。
 結果として放たれる攻撃は真下からの垂直上昇斬撃。
 だが当たらない。 右ステップでの移動距離が槍の間合いより遠かったための空振り。
「特戦部の期待の新人は満足に槍も当てられないのか?」
「そう思うかのぉ!?」
 ……間合いが掴みきれん!
 舌打ち、しかし戦闘の連続を止めることは無い。
 振り下ろしの斬撃、踏み込みのタイミングはつかみづらいが、それでも降りてくるという事実は理解できる
 ――ゴン・回避技能・対抗発動・バックステップ・失敗!
 反射神経が上手く働かない、そして振り上げた槍の重さが技能の邪魔をする。
 槍を勢いのまま、上へと放り投げ
  ――ゴン・回避技能・発動・バックステップ・成功!
 今度は意識的に技能を発動させて回避
たいぎい(うざったい)技をつかうのぉ!」
 言い終わると同時に上に放り投げた槍が上げた片手に戻ってくる。 重量でその存在を確認。
 落下の勢いが加わり、感じる重さは通常よりも重く
「お…っと!」
  ――ゴン・脚術技能・発動・姿勢制御・成功!
 後ろに崩れかけた体制を技能で修正、さらに両手で槍を掴みなおせば、上段に振り上げた姿勢で止まった。
 まだ相手の体勢は戻りきっておらず、剣の間合いの外側まで自分は逃げている。
 今踏み込んで、槍を振り下ろせば穂先は確実に当たると判断。
  ――ゴン・聴覚技能・自動発動・状況確認・成功
 攻撃の決定とほぼ同時に耳に入るのは、音律を持った(コード)らしき声

 
let's sing.(サァ歌おう)
The song by which all people who hear it stop his foot(聞く人が皆、足を止める歌を)

 続くのは発射音
 瞬間、足に踏みとどまった足に冷気が来た。
 思わず足に視線を向ければ、そこにあるのは地面に張り付き、凍りついた自分の両足だ。
 力を込めれば氷が軋む音が聞こえる。 技能を使えば吹き飛ばすことが出来る程度の氷だが。

The song by which all people who hear it can gain Light(聞く人が皆、光を得られる歌を)

 聞こえるのは同じ音律で放たれた、似て非なる詞
 見上げる視線に写るのは、ゴンの驚きの間に、剣を横薙ぎに振り払う構えに変えていた少年の姿だ。
 大剣の刀身には明らかな輝き。
 流体が物理的な力を持つ光に還元されているのだ。
 遺伝詞を詠む限りでは神器の光だが、肝心の少年自身に神器の気配は見えない。
 そして何より、少年の耳にはイヤホンすら存在してなかった。
「神器を用いずに、神器の力ぁ使うんか!?」
 更なる驚きの間に少年は腰を捻る、後は力強く振るだけで光刃が放たれるだろう。
 良く見れば大したことの無い詞階だが、槍の間合いより少し離れただけの至近距離で打たれれば唯ではすまない。
「ここで黙ってもらうぞ、期待の新人!」
 叫んだ声にまた視線を変える、先ほどまでライフルを持っていた少年だ。 銃口には冷気の遺伝詞が見える。
 矢張りこちらも神器の気配は無く、イヤホンが無い。
 トリガーが引き絞られる。
 バックスウィングが大きく取られる。
 正面と右方向から来る同時攻撃に
 ……ここで倒れて何が期待の新人じゃ!
 笑った、まるでこのギリギリの状況をまるで楽しむかのように
 ――ゴン・槍術技能・発動・構え変更・成功!
 槍の柄を短く持ち、スイング終了までの速度を上げる。 威力度外視の構えだ。
 ――ゴン・遺伝詞技能・重複発動・五行急速充填・成功!
 時間が無い、故に込める力は最小限。
 準備が足りない。この状態では恐らく三万詞階までしか破壊できず、両砲撃を防ぎきることは出来ないだろう。
 だからこそ放った。 己にしか放てない、しかし己の力ではない力を
"下っ端の力じゃあ、ワシの体に痛みは与えられんのぉ!!"
意詞加圧(スピリットブースト)"鉄壁"気動 ・ 発動者が持つ遺伝詞の硬度を×2を上限にして加圧>
<加圧制限は1戦闘ターン(テンカウント)に設定されています>


 意思を放つと共に力が来た、己の遺伝詞を守る方向性で補強する意思の力が
 それに伴う微かなだが確実な光に戸惑いながらも、二人の戦闘者は責務を放つ。 光と氷の同時砲撃。
 あわせて、短く構えられた槍が叫びと共に放たれた。
「コォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!」
  ――ゴン・腕術/遺伝詞技能・重複発動・五行障壁・超成功!!



 振り下ろした穂先から、蒼い透過光と陽炎の壁が生まれる
 陽炎は床と天上に浅い抉り後を発生させ、光の刃と氷の砲弾を消し去った
 粉塵が舞う
 



 二度目の五行で抉られた通路は、粉塵を産み、そして落ちきった粉塵をも再び舞い上げる。
 遺伝詞を見切れぬ剣の少年、その曇った視界を通して見える影があった。
 長い金髪の五行師、その姿は槍を構え直している最中だ。
 それは隙だ。しかし、ただ剣を放っただけでは槍で受け止められて終わるだろう。
 だからこそ少年は叫ぶ、己に設定された字名(ハンドルネーム)
「千葉圏総長連合、"WOLT"が一兵、『ライナス』!!」

 ライナスが匿名を捨て、『自己認識名(ハンドル)』を宣言した。
  ■ Anonymous -> "RiNas"
  ■ Indefinite -> "Critical Forcer".
  ■ Unemployed -> "Nameless Solder"
 『ライナス』の存在が確定された。

 これで共神器(マーチ)は使えず、認識迷彩も消え、能力の平均化も無い。
 だがその宣言と共に、己自身が持っていた力がよみがえる。 そして技も
「食らえ五行師……っ!」
 ――ライナス・腕術/剣術技能・重複発動・構えなおし・成功!
 振り切った刃を返し
  ――ライナス・脚術技能・発動・踏み込み・成功! 
   ――ライナス・腕術/剣術技能・重複発動・逆胴切り・成功!
 そのまま距離を詰め、先ほどとは逆の方向から大剣を振りぬいた。
 技能を乗せた一撃は速く、鋭く、そして重い。 
 対する五行師は、攻撃の気配に気づいたのか槍を立て、防御の姿勢を取った。
 穂先はこちらを向いている、そのまま受け止めてカウンターの突きを放つつもりだろうと判断。
 結果は想像できている。 こちらの攻撃は防がれるだろうが、それでも相手のバランスを崩す程度の力は込めている。
 そしてバランスを崩した相手に、今度は逆方向の太刀を打ち込めばいい。
 今の、技能が使えるならソレが可能なはずだ。
 ……これで、終わりだ!
 思考を疾走させ、剣と槍が交差。 結果として相手は剣の勢いに押され――
「な」
「テンカウントはまだ終わってないで?」
 ―――無い。
 金髪の五行師は槍でこちらの一撃を受け止めている、余裕の笑み。
 見れば、剣は槍の数センチ前に浮いた青白い透過光の盾に受け止められている。
 描かれている文字は"鉄壁"
 それは先ほど、五行の瞬間に一瞬だけ発生した光だ。
 記憶をたどれば、その力に覚えがある。
「広島の意詞加圧(スピリットブースト)か……っ!」
「ワケありで神器使えんからの、こんな古臭ぇ力がまだのこっとるんじゃ」
 鼻で笑う姿に、ライナスは応えようと息を吸い
 ――ゴン・腕術/槍術技能・重複発動・直突き・成功!!
 ぶち込まれた穂先で胸部装甲を砕かれ、衝撃で意識を断ち切られた。


 "鉄壁"で軽減された反動は軽い、しかし確かだ。
 ――ゴン・遺伝詞技能・発動・状態判断・成功!!
 そして見えるようになった剣士、ライナスの意識遺伝詞は休眠状態に叩き込まれている。
 ソレを確認した後、肌が震えるような感覚が来た。そして軽い眩暈と動悸。
 ――ゴン・心理技能・発動・意詞補正・成功
 ……"鉄壁"はもう使えんのぉ
 一呼吸で乱れた精神を押さえ込み、バックステップ。
 倒れるライナスはすでに見ていない、穂先を構えるのはもう一人の兵士、ライフルを構えた砲術師だ。
<1戦闘ターン終了、鉄壁の効果を解除します>
 抜けていく力を確認、腰を落として飛び込む構えを取った。槍の穂先はすでに敵に向いている。
 ――ゴン・体術/槍術技能・重複発動・前進跳躍準備・成功!
 永坂流の極意は全速力での突進を織り交ぜた高速機動だ、故に戦術は二分される。
 近くの相手には旋回行動を織り交ぜての立ち回り、そして離れた相手には
 ……全開で突っ込んでぶん殴る!
 シンプル極まりない、しかし強力である戦法。 だからこそゴンという五行師はこの舞闘を選んでいる。
 ギリギリの判断能力と安定を保つため、"加速"の気動式は使わない。
 ――ゴン・目視/心理技能・重複発動・敵距離感知・成功!!
 だがそれで十分だと判断。敵がライフルを捨てバズーカらしき武装を持ち上げたが意識的に無視。
 あの妙な神器の威力はたかが知れている、先ほどの交差でそれは理解できていたからだ。
 組み立てた戦術はシンプル。
 一歩で距離をつめ、二歩目で回避行動しながら前進、そして三歩目で踏み込んで槍を叩き込む。
 高速で深い呼吸を行い、全身の筋肉にバネのイメージを与える。 後は一歩目を踏み出すだけで戦闘終了まで一気に近づく。
 「……これで終わりじゃあ!」
 ――ゴン・遺伝詞技能・自動発動・弾頭判断・成功!
 跳ねる瞬間、敵が構えた武器の正体に気づいた。
 跳躍を止めた顔が引きつる。
音壊爆弾砲(ディスコードカノン)!?」



 たたらを踏んだゴンと、大型の砲を構えた装甲学生服が相対する。
 ゴンのすぐ後ろには、気を失ったラスカルがいた。
 互いの距離は10mにも満たない。
 

 弾頭を判断させたのは、銃口からもれる独特の輝く遺伝詞だ。
 音壊爆弾(ディスコード)
 それは、遺伝詞を大きく震動させ、破壊することにより散乱。
 その散乱した遺伝詞をかき集めて風水(チューン) しやすくするためのアイテムだが、出力さえ高めておけば五行兵器として成り立つ。
 ――ゴン・軍事/遺伝詞技能・重複発動・弾頭判断・成功!
「しかも通常型じゃあ……、ワシが避けたら仲間に当たるで?」
 砲術師を引きつった笑顔でにらむ、冷や汗。
「死にはしないさ、こっちにだって風水師はいる。
 それに計画が成功すれば……、いや、言うまいさ」
 言って、WOLTの砲術師が引き金に指をかけた。
 遺伝詞は認識できず、目視にも微妙なズレがあるが、目に宿る力が分かる。
 本気だ、この少年は確実にトリガーを引くだろう。
「威力じゃなくて範囲重視の弾頭…、もし避けても巻き込めるだろう?」
 その言葉で、槍を持つ手に力を込める。
 ――ゴン・軍事/遺伝詞技能・重複発動・弾頭詳細判断・成功!
 放たれる力は十八万詞階に相当するだろう、ただの五行では届かない。
 ………ラスカル兄ぃ、スマンのぉ
 心の中で相棒に謝罪、その上で槍に込める力を強くする。
 ――ゴン・遺伝詞技能・重複発動・五行充填・成功
  ――ゴン・槍術技能・発動・構え変更・成功
 穂先は相手に向けたまま、腰を落とす。狙いは砲口
「本当はこんなところで使うつもりじゃあなかったんだけどね」
「奇遇じゃの、下っ端。 ワシもじゃ」
 言葉に眉をひそめた砲術師、しかし照準を惑わすことは無い。
 ………ごめんよ、ラスカル
 引き金を絞る、あと一グラムでも力を込めれば弾頭は発射されるだろう。
 対するゴンは回避行動を取らない、弾頭を五行で迎え撃つ構えだ。
「……通常の五行師の、2倍強の出力を迎撃する気か?」
「普通だったら無理じゃろうなぁ、ワシの限界は十二万じゃしの」
 苦笑、だがそれでも逃げることはしない。
「意詞加圧はそう何度も使えないはずだ、あの力は意思を直接削られ、何時かは廃人に至る力だ
 ……それにこの力は、鉄壁すらも砕くぞ」
「鉄壁砕いたくらいで、ワシが下っ端程度にやられるかの?」
「やらせてもらうさ……っ!」
 トリガーに力を込める、砲弾の発射まで一瞬のタイムラグがあり
"ワシの五行は死ぬほど強烈じゃぞ!"
意詞加圧(スピリットブースト)"熱血"気動 ・ 発動者が持つ攻性遺伝詞の炸裂力を×2を上限にして加圧>
<加圧制限は一回行動(シングルアクション)の発動のみに設定されています>


 意思の表れと同時に放たれた砲弾はすでに両者の中間距離まで飛んでいる、炸裂まで数瞬
 その数瞬に、槍の中で倍加した遺伝詞が暴れまわる。
 音壊爆弾が炸裂
「コォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!」
  ――ゴン・腕術/遺伝詞技能・重複発動・五行発射・超成功!!
 瞬間、槍から破裂の遺伝詞が放たれる。赤い透過光と白銀色が混じった遺伝詞。
 加圧済みの力は音壊爆弾の炸裂に対し、暴竜のように食らいつく。
 食い尽くすことは出来ない、赤と白銀の遺伝詞は逆に己を食われ、その力を削がれていく。
 まず最初に食われるのは赤。 まるでガラスのように砕け、中の白銀を守ることをしない。
 だが白銀の奔流は止まらずに破裂を食っていく、破壊の共食い。
 全ては、一瞬の出来事。


 廊下にはじけるような音が響いた。
 硬質物の欠片が宙を舞う


「ガッ…!?」
 短い苦悶の声を上げ、胸のプレートを粉砕された砲術師が後ろに飛ぶ。
 遺伝詞の大半を削られたとはいえ、ゴンの五行はまだ生きている。
 衝撃は砲術師に確実なダメージを与え、意識を断ち切っていた。
 その様子を見て、ゴンが拳を握って上げる。戦闘終了の喜びを表すしぐさを行い
「よっ…」
 瞬間、くぐもった爆発音が聞こえた。
 あたりに漂うのは白い蒸気のような気体だ。
 そしてゴンの服が地面に落ち、一瞬遅れて槍が響く音を立てて落ちた。
 金髪の五行師の姿は何処にも見えなくなっている。


 左手に大剣を、右手にちぎれた機械の腕を持ちながらラスカルが歩く。
 行く先に倒れているのは二人の装甲学生服、そして赤と白の服で出来た山だ。
 その服の山がモコモコと動いている。


「どうやら、終わっているようだな」
 ――ラスカル・遺伝詞/医療技能・重複発動・ダメージ判断・成功
 二人の侵入者は綺麗に意識を失っているが、後遺症が出るほどのダメージは受けていない。
 二人のうち、一人だけが認識しやすくなっているが、ラスカルはそれを気に留めずに携帯電話を開ける。
「D-63ブロックの侵入者を撃破、意識不明の軽傷2に……」
 右手に持った腕を見て
「全損の自動人形が1だ。 衛生科医療班で暇なのをよこしてくれ
 ……ああ、後続は無い。 こっちは問題が無いことも無いが……、足で帰れるだろう」
 了解、と電話口が応えたのを聞いて、ラスカルは携帯電話を閉じた。
 足を進める先は動きを見せる服の山だ、近づくラスカルに気づいたのか、急に動きが激しくなる。
 その服の山に手を突っ込み、リボンらしきものを掴んで動きの原因を掴み上げた。
「……幾らなんでも2対1だ、それくらいの反動はあっても仕方有るまいさ」
 摘み上げたのは一匹の狐だ。何かを観念したかのように大人しくなり、かがみこんだラスカルと視線を合わせている。
「意詞加圧の過剰使用で精神の均衡を崩して獣詞変(オルタード)、難儀な体だな」
 その言葉を理解したのか、ゴンという字名の人狐は狐の状態で肩を落とした。
「30分もあれば元に戻れると聞いたが、本当に大丈夫なのか?」
 とりあえずゴンを地面に下ろし、服をまとめて狐の首に結びつける。
 その行動に抗議の声で鳴くゴンを無視して、ラスカルは自分の腕時計を見た。
「7時36分、そろそろ夕食の時間だな」    



[登場人物]
字名(アーバンネーム) ゴン♀
都市 学園都市・TUKUBA(出身は無神器都市・広島)
肩書き 五行科専攻学生
戦種(スタイル) 五行師、近接武術師
舞闘(ダンス) 永坂流(授業で取得)
五行限界詞階 補正無しで12万詞階
使用武器 槍型神形具
気動式 鉄壁 ? ? ? ? ?
性格 傍若無人で大雑把、自称セクシー系
詳細 人狐の少女、本人曰く某企業のお嬢様。ちびっこ
長い金髪をポニーテールでまとめ、狐耳カチューシャと偽チャイナドレスを装備
胸はないがその分は足への自信で補っているつもりである
同居人、屋比久・奈央とのガチレズ疑惑がささやかれるが詳細は不明
仲がいいのは確か

字名(アーバンネーム) ラスカル♂
都市 学園都市・TUKUBA
肩書き 五行科大学部生徒
戦種(スタイル) 五行師
舞闘(ダンス) 示現式
風水限界詞階 不明
使用武器 大剣型神形具
性格 冷静
詳細 年増園の住人、モブ





〔用語〕
――共神器(マーチ)
 ありとあらゆる神器の音律を取り込み、一つの音楽に纏め上げた神器の亜種
 匿名の状態でしか聞くことが出来ず、属性別に設定された一定の通詞(パスワード)を唱えることで、力の一端を使うことが出来る
 取り込まれている神器は無数であり、右神器だけではなく一部の左神器ですら通詞一つで発動可能である
 ただしその詞階はたかが知れており、最大出力でも王を超えることは無い。