深夜。
 吹き荒ぶ風の届かぬ部屋の中、一つのベッドの上で二つの影が結ばれていた。
 閉じられたカーテンは、外界から全てを切り離す。
 月明かりすらも二人の傍に立つことを許されない。
 二人だけの時間が過ぎていく。
 滔々と。
 二人――男女の間には、ぬくもりがあった。
 人のぬくもりだ。
「ねえ、ちょっと頭下向けてみて」
 女の声が部屋に響く。
 声に応じて、横になったまま二つの影が動く。
 衣擦れの音をたて、一つの影がもう一つの影の上に圧し掛かる。
「むぅ、やっぱり大きくなってる」
「なにが?」
 女の胸元から、男のくぐもった声が問う。
 女は男の頭に顎を乗せ、答える。
「背」
 再び衣擦れの音。
 女が動き、二人の視線が交じり合う。
 男の肩に、女の黒髪が触れる。
「昔は私の方が高かったのに」
 ゆっくりと、男は手を伸ばす。女の頬へ。
 女は男の手に己の手を添える。
 二人の吐息が交じり合う。
 二つの影も、交じり合う。
「彰人」
 湿った声で、女が呼びかける。
「頼みがあるの」
 共に脈打っていた鼓動が、幽かにぶれた。
「もしも私が死んだら――」
「恵!」
 男は叫んだ。
 男の鼓動が、大きく乱れる。
 二つの鼓動が、離れていく。
「そんな顔をしないで」
 女が男の手を強く握った。
 鼓動は緩やかに距離を取り戻す。
 共に同じ時間を刻んでいることに女は喜びを得る。
 そして、そっと男の手を誘う。
 己の両乳房の狭間に。
 男の冷たい手を肌に押し当てたことで、一瞬鼓動が跳ね上がる。
 それでも、男の手を強く押し当てる。
「いい? もしも私が死んだら、これを引き継いで」
 男は女の肌に指先を這わせた。
 そこには、十二の文字が刻まれている。
 指先から、女の鼓動が伝わってくる。
 文字から、女の想いが伝わってくる。
 伝えられたものに対して、男は言葉を遣わずに答える。
 二つの影が、一つの影になる。
 女は、唇から男の覚悟と、不安の想いを受け取る。
「”今”の彰人なら、大丈夫。なにせ私と……きゃーきゃー!」
 女が男の上で身悶える。
「痛いよ」
 苦笑する男からは、不安の色が掻き消えていた。
 女が落ち着きを取り戻すまで、男は心地よい痛みを甘受する。
「彰人」
 絹のような女の黒髪が、癖のある男の髪と交じり合う。
「好きよ」
 男は頷きを一つ。
「僕も。私も。我も。みんな、君のことが好きだ」
 その言葉に対して、女は微笑んで問う。
「それだけ?」
 その言葉に対して、男は微笑んで答える。
「――俺も、好きだ」
 今はまだ、夢の途中。





――1995・1・17 二つの夢が結ばれた夜に